PBP2015 時を越えて走るランドヌール 03


いよいよスタート
この4年間を思い出す。
長かったが短かった。
その思いが今ここにある。

集団は少しナーバス。今から1,200kmも走るというのに、相変わらずの位置取り。去年もびっくりしたというかウンザリだった。
極力前の20〜30人以内に位置する。これはオランダでアマチュア時代にチームから言われていたことで、プロでも当然当たり前のことだ。
もし前で逃げがあったりしても見えないし、集団後方ほど落車の影響を受ける。
集団が本当にコンパクトになるまでは後方へは下がらないようにする。
そしてなるべく集団の真ん中には埋まらぬよう、多少空気抵抗が増えてもいいから横を常にオープンにしておきたい。
最悪前で落車があったとき、横へと逃げ道は確保しておきたいからだ。

サンカンタン・イブリーヌの町を完全に出るまでは先導バイクがコントロールしている。
正直思ったほど速くなく、一瞬頭の中で「こりゃB組の方が速いかもしれないな」とよぎる。
交通規制も1組目もよりも2組目の方が手際がいいのかも知れない。


郊外に出たと言ってもまだ小さな村を結んでいくようなルート。
集団は大きく、まだ立派な泥除けを付けたランドナーやとてつもなく大きなリュックやサドルバックを装着したツーリストも混じっている。
あんな大きなサドルバック付けていて重くないのか?それよりも意外と段差で揺れが大きいし・・・と思っていると、段差で目の前の選手のサドルバックが衝撃ではずれ、後方へ。
そしてすぐに集団内で落車が発生。サドルバックの固定方法と言うか、それ以前にこのスピード域であの大きなサドルバックはリスキーだな、やっぱり・・・と思っているとまたもや目の前の選手が今度は自分のサドルバックが後輪に挟まり自爆。
ギリギリのところで回避したが、またもや後方は激しい音とともに落車。
一時は集団がいきなり40人ほどに減るが、すぐに合流。まだ200人ぐらいは入るのかスピードが上がった際には果てしなく長い。


集団常に37キロぐらいで巡航。
何人かの恐ろしい軽装のライダーがローテーションして先頭を引いている。
フランス人。
どうもこの集団内にもある程度「本気」でタイムを狙っている選手がいて、その選手のためのアシストという考えがどうも一番しっくりとくる。
16時スタート時点にほとんどの選手が半袖半パンなのに、引いている選手はなぜかレッグをしてヘルメットもかぶらずウィンターハットだったり。
完全にPC1以降はイージーペースかDNF組だな、これは。

小さな丘そして小さな村をつないでいくようにして西へと進む。
しばらくは太陽を見ながらの走行だ。

今回の装備で気を付けたのは、普段レース的なライドの場合はKABUTOのヘルメットのサイズはS/M。
しかし今回持参したのはL。
中にレーサーキャップを被るため、わざとワンサイズ大きくしている。
往路の夕方、復路の朝方は太陽の光目が疲れるのをキャップのツバを落として太陽を遮るため。
そしてナイトランでは気温は多分12℃前後と想定。下りではおでこが冷えることでパフォーマンスが下がる。
その時はキャップ装着。もし雨が降ってきたときもレーサーキャップを被ることが大きくライドをサポートしてくれる。


アベレージは35キロオーバー。速い。
これはB組はあまり心配しなくていいのではないだろうか。
自分から動くことはない。今は大きな動きに身を任せていればいい。


最初の本格的な揺さぶりは100km過ぎのセノンシュからの丘。
前回もここはペースが速く、ここで初めて何かが違う、これは間違いなくレースだ、と感じた場所だ。
ルートは頭に入っていなかったが、登り始めて頂上が見えない、かなり長い登り、これはあの時の登りだと分かったところで少しペースアップし前方へ。
前へ徐々に位置を上げて前方10人ぐらいで頂上近くまで登り、頂上までスロットルを開くのではなく、なるべく短い時間にして、絶対先頭から離れない位置、後方がジョイントして長くなる際にちゃんとその列の中に納まる位置を計算して踏むのをやめて、安全ラインぎりぎりまでは列の横へ待避する。
20人ほどの集団になるが急こう配を終えたところで集団に吸収。まだまだ集団は大きいのでこれから何度もこんなことを繰り返していくだろう。
その時に何度もあるから大丈夫と油断して、そのまま余裕がある状態で中切れをしてしまうことが一番危険だ。
すべてのことに絶対はないが、ここは今までの自分の経験を優先して信じたい。
まだ「絶対」大丈夫だ、と。


そんなつばぜり合いを繰り返し、140km地点モルターニュ・オーペルシュの町へと差し掛かる。
ここはそれなりの急こう配の登りをもつ町で、頂上と思ってからも微妙に登り勾配で町を曲がって曲がってさらに曲がってと、集団の後方はいやがうえにも苦しむ。
必ず前で展開するべき場所、そう、この地点はThat's Road Race!
登り勾配がきつくなったところでスルッと集団前方へ。
そしてペースアップを確認して集団の10番手あたりへ。
今回はアウター(53T) のままカセットは23T、26Tをマックスに17〜21Tで登る。
中切れが起きジャンプアップ。5番手あたりで急こう配を終えてコーナーを終えて頂上へ。
後方を確認すると細切れになって各グループが追走してくる。
その間に背中にさしていたボトルをほぼ空になったボトルと入れ替え、ほぼ空のボトルは飲みきって観客の多いところに投げ込む。
下り区間の間に補給食を口に頬張っておく。
さて、何人が合流するのだろうか。


モルターニュ・オーペルシュ:138km 19:59通過
約60人ほどでPC1へ向かう。
ペースダウンの間にテールライトのスイッチオン。
各ライダーともにテールを付け始め、そして反射ベストを着用する。
そう、80時間カテゴリーの前の方は、反射ベストは夜以外はまず着用していない。
B組のライダーはどこにいるんだろう・・・
ここまでアベレージがだいたい35キロ、15分を追いつこうと思うと37キロぐらいで走る必要があるはずだ。
このまま追いつけずに終わるんじゃないだろうか。
ここでの走りに集中しよう。きっとB組がこれから追いついたとしても、かなり消耗しているに違いない。


遠くに沈んでいく太陽の位置を確認。あの沈む太陽の方へ進んでいく。
いよいよナイトラン
後方から見れば、尾灯と反射ベストの列が、まるでなにか神聖な者たちのようにも映る。
ヨーロッパの町のつくりは「点と線」
点すなわち町、線が町を結ぶ道。
町を抜けると次の町まで何もない。
その線をひたすら一列の神聖なものたちが、ただただ突き進んでいく。
それはレースとかランドヌールとかではないのかもしれない。
例えるなら、パリの洗礼された都会の風を西の果て港町ブレストへと運んでいるかのような・・・
それは100年も続く儀式、自分たちはただその儀式を担うものたちでしかないのかもしれない・・・
風に、景色に同化していく・・・


最初のPC、ヴィレンヌが近づいてくる。
今回はサポートで矢野くんが待っているはず、以前のようにコントロール後に食料や飲み物を心配しなくてもいい。
町が近づくにつれてペースアップ。いい位置を確保しながらPC1へ。
ピンクのラファのジレを着用した矢野くんを発見!
バイクを渡して数段の階段を一段抜かしで一気に数人抜き、コントロールは3番目ぐらいで通過。
レーサーシューズのランニングもいい感じだ。
スピードプレイのウォーカブルクリートのおかげで歩いても滑らない。確実なグリップ感のおかげで前の選手たちをごぼう抜きだ。
食料をポケットに詰め込み、他の選手の動向を見ながらギリギリまで補給食の選別や会話から情報収集を行う。
「頑張って!」
矢野くんに激励されスタート。
バイクを降りて乗るまで2分18秒。
フジュールのPC2を目指して再びバイクに乗って進んでいく。

PC1 ヴィレンヌ 221km 22:23 


スタート
町中を抜けていくが、落車注意だ。



いったい何を入れているんだよ、デカいサドルバッグ・・・
と、この写真を撮ってすぐに、段差でこのサドルバッグが外れてリアホイールとフレームの間に入り込み、本人が落車。
道が狭かっただけに後続は巻き込まれたようだが、自分は間一髪免れる。



前回のようにいきなり白人女性が目の前に現れた!
と思ったら、そういうデザインのジャージだった(笑)



周りが暗くなり始める
夕焼けがきれいだが、そのきれいさに浸っている余裕はない
いよいよナイトランの始まり


尾灯と反射ベストを着用
集中力の切れる、危険度の増すナイトランこそが本当の揺さぶりポイント
ここからが集中だ