PBP2015 時を越えて走るランドヌール 04
ナイトラン
特に日が変わって気温が下がり「夜」の時間帯から「朝」の時間帯へと移ろうとする頃、人は誰しも強さを失う。
オレも何度も3時から6時の時間に寝落ちしそうになり、スピードが低下したり、考えがネガティブになったり・・・
この時間を制するものが、間違いなくブルベで一番速い。そして一番安全なのだ、と。
何より皆が同じような反射ベストで走っているので、誰が誰だかわからない。誰かをマークするなんてこともできない。
往路復路ともに1回ずつになるであろうナイトランが、必ずキーワードになってくる。
PC2 フジェール 310km 8月17日01時16分
ここまでの走行時間は9時間16分。スタートから約100kmがアップダウンと言えど比較的緩やかで、スピードが乗りやすかったと言えど驚きだ。
PC1からPC2までの89kmのアベレージが33.5km/h。ナイトランのアップダウンと考えればかなりのスピードだ。
コントロールでは相変わらずのランニング大会。
前回もそうだが、人数が減ってくれば先頭と最後尾のタイム差はコントロールを終えて再びバイクに跨ったときに縮まるから離される距離は短くなるものの、集団後方で出発すればいいという作戦なら、ストップしていられる時間は短くなる。
やはりコントロールも前に行く方が望ましい。そして有力選手と思われる人がバイクに跨れば、迷わずついていくことだ。
前回のPCと変わらないぐらいの停止時間でスタート。
まだこのあたりは「望ましくない客人」が集団に含まれている可能性がある。
いま落とす必要はない。が、今揺さぶりをかければ間違いなくゴールまでに落ちるだろう。こちらが痛まない方法でジャブを打てばいい。
ならば休憩時間だ。
要は最後にいなければいいはずだ。
特にナショナリズムの強いフランス人、自国が誇れるこのイベント、外人たちと一緒に仲良くゴールしようなんてことを思っていないことぐらい、プロ時代から知っているつもりだ。
急こう配の丘を登ったところでトイレ休憩。
ここでさっき矢野くんから受け取ったニーウォーマーを着用。
今回はニーウォーマーもアームウォーマーもメリノウール。
最高気温が27℃ぐらい、最低が12℃と言っていたので(実際もう少し冷え込むと予想、実際10℃を下回るぐらいだった)気温のキャパシティが大きいならばメリノウール素材の方が都合よかった。保温性もあり通気性もある。
まだみんなが用を足したりして、集団全体が動くぞ、っていうタイムラグの間に着用する。
上下の向きや前後向きを間違えないよう、バイクを地面に寝かせてヘッドライトの前にしゃがんで着用する。
このショートステージ、少し下り基調なのか特にきつくは感じないがスピードは速い。
そしてPC3タンテニアックへ。到着する。
PC3 タンテニアック 364km 8月17日 03時05分
そろそろ眠たくなる時間。ヨーロッパ的に言うと「悪魔が村を通過する時間。窓を開けてはいけない時間」となるのだろうか。
前回はこの時間に白人女性のスペシャルダンスを延々と見せていただいた(笑)
今回は時差ボケも少なく、そして睡魔もなく、少し残念ではあるが何も幻覚を見ることなく終えた。
そしてPC4のルディアックまでは85km、きっとこのあたりは注意をする必要があると感じる。
アップダウン区間で突然先頭でペースアップした選手、単独で30秒ほど抜け出す。
え?まだ800kmはあるよ??
そしてそれを単独で追走する選手。
まだ集団は40人ほどいる。激しい動きをしなくても大きな動きに身を任せればいい。
すると集団からさらに4人が抜けだし、その後に数人のグループが抜けだす。
仮に前に追いついたとして、残り800kmを数人でローテーションして進んでいくということがイメージできない。
それが追走しようという気をなくしてしまっている。
だが完全にロードレースのような展開でペースアップし始めた。
勾配のきつい、長めの坂で前を追走するアタック。
それに反応せざるを得ない。
集団からは登り勾配に耐えられず中切れする選手や、ヨタヨタと千切れる選手・・・中にはパニックになったのかシフトミスしてチェーンが脱落、すごい勢いで集団を突き抜ける選手も。
今回はコンポにEPS(電気式)
シフトミスは基本的にない。安心して、落ち着いてシフトすればいい。
吸収してはアタック、吸収してはアタック・・・いったい何なんだ??
そしていつの間にか30人弱になり、集団から離れた選手のライトは全く視界から消えてしまった・・・
しばしの平坦区間、集団のまま進んで再びトイレ休憩。
2〜3分集団は止まっていたが、後続が来る気配はまったくなかった。
落ちた選手は、暗闇に落ちて悪魔に襲われた、ということか・・・まるで暗く深い海に沈んでいったかのように感じる。
ルディアックのコントロールへは比較的おとなしめに到着。多分前の5人以内。
ルートからコントロールまではバリケードでルートを確保されている。
観客がひときわ多い。
矢野くんにバイクを渡して、小走りで移動しながらブルベカードを胸元から取り出す。
相変わらず小走りでコントロールでスタンプを押しに行く。
ルディアックのコントロールは多分1分弱でバイクへと戻ってきて、食料などをゲットし次のPCで欲しいものをリクエストする。
ストップ時間は2分11秒。
バイクに跨り先へと進む。
PC4 ルディアック 449km 8月17日 05時55分
この区間は下り基調だったさっきよりも速い平均30km/h。
如何にアタックが速かったのかわかる。もう1,200kmの走りを越えている。
夜が明け始める。
丘陵地の低地部分が雲海になり、幻想的な世界。
ただしこたま寒い。
ある程度この気温を予想していて薄手の長指グローブをブルベジャージの3つポケットの上に着くエクストラなポケットの中に忍ばせていた。
長指グローブを着用し、その上から指切りグローブを着用する。
今回希望者には提供されている(参加費に込みだった?)反射ベストを着用して走行しているが、喉元は風が直接当たらないデザインで、生地も少し厚めのおかげでそれほどお腹や肩は寒く感じなかった。すごく重宝した。
頭もレーサーキャップを被っていたので風は直接おでこに当たらず快適だった。
結構冷え込んでいるのか、ベルギー人ですら手をグーパーを繰り返し温めている。
ここはベルギー人が基準だ、間違いなく寒いのだ(笑)
前回メルレアックの登りで、あと100mぐらいで急こう配を終えようというときに、余裕だなと思っていたにもかかわらず突然激しい空腹がやってきて、全身鳥肌が立ち千切れていった。
今回登っていても余裕はあるのにトラウマ、少し恐怖を覚え足がすくむ。
はやく登り切りたい、はやく終えたい・・・と。
しかし心配をよそにすこぶる快調にピークをクリアーし、丘のアップダウンを走り徐々に明るくなり遠くに太陽が登り始める。
悪魔の支配する時間は去って行った・・・
ナイトランでは何かしらの能力がスリープモードになっているようだ。少し記憶が薄かったり、いつもだと普通にできることができていないことに気づいたり・・・
そして一番見落としていたものに気づくことになる。
ふと一緒に走る選手たちを見ると・・・
大半がB組の選手・・・
え?いつ??
この選手序盤から一緒だったよね??
そう、薄暗さと反射ベストで気づかなかったが、どうやらPC1では既に追いつかれていたということ・・・
なんとB組からの合流組は、PC1までを平均時速35.9km/hで走ったらしい・・・
ということは、あの真夜中の悪魔に生贄を差し出したようなアタックは、彼らによるものでA組によるものじゃなかったということ。
勝負は完全にフランス人たちの掌の上にある。
この時点で完全に先頭タイムという夢は消えた・・・
通過する村々は明かりもない。
まるで悪魔が通過するのを見ないようにするかのうように、扉は閉ざされ、明かりも漏れていない。
この塊からはぐれてしまうと、すぐに悪魔に襲われてしまう
そんな冗談みたいな空想の話も、
まるでホントにそうなんじゃないか?と少し恐怖を感じるほど、真っ暗で何もない。
朝を迎える
まだ寒く、みんな反射ベストで寒さをしのぐ。
ふと見渡すとフレームに取り付けられたナンバーは大半がB・・・いつの間に
バイクには序盤のペースアップから記憶がある。
ということは・・・