パリ〜ブレスト〜パリ その4

masahikomifune22011-09-02



補給を調達するのに少し手間取り、集団から離れてしまう。
同じように離れた2人の選手と一緒に追走、約2kmで合流。集団も小便休憩を町の外れでおこなおうとしていたので助かった。
ここで念のためチェーンオイルを軽く足し、そしてちょっと違和感のある足首にサロンパスを貼る。
再び集団から離れるが、スピードが上がっていないのですぐに追いつく。


ルデアックの町を抜けると闇が去り朝がやってきた。
しかし実感として時間の感覚は正直ない。
ちょっと時間に関しては麻痺してきている。
プロの時に一番長いレースがパリ〜ブリュッセルの280km。
それでも向かい風基調で8時間ほどだった。
それに比べてPBPでは、ここまでで15時間以上も集団で走り続けている。
そんな経験は今回が初めてだ。

月曜日の朝は出勤だな、とどうでもいいことを考える。普段だったら「だから何やねん」ってことを一生懸命考えようとしたり、どうでもいいことで一人ニヤニヤしている。

そして畑道や小さな集落を抜ける曲がりくねった細い道を進んでいく。
田舎町を抜けると結構急勾配の登り。
大きな岩のような山で、どうもそこの頂上までは登り続けるようだ。
頂上まではおおよそ見通しが良く、だいたい3kmぐらいの峠と推測。
ここはまるで試されているかのような登りで、しかしあまり全力を出さないようにクリアーを心掛ける。

登りは決して速いスピードじゃないが、決して遅いわけじゃない。
ちょうどLSDぐらいかな、と言うレベル。
集団後方では何人かがこぼれそうになっているが、俺自身はそれほどじゃない。
しかし頂上付近でなんとなく体に燃えたぎるものを感じない。
ヤバいな・・・
そのまま下りに入った


下り始めてすぐにハンガーノック気味だということは理解できた。
消費しているエネルギーからすると、この150kmほどはロクに食べられていないのでエネルギーは足りていない。
コーラを飲んだり補給食をもらったりでなんとなくごまかしていたが、「重いもの」はちゃんと摂取できていない。
かなりのペースで消耗しているから食わなきゃいけなかった。が、何もなかった。
せめてフランスパンなど炭水化物でしっかり噛めるものが欲しかったな・・・

なんとか気合い!
と耐えるものの、490km直前で集団からあっさりと千切れてしまった。
もう30人強しかいない集団だったし、ここまできたら、と考えていたので辛いがどうやっても力も気力も湧いてこない。
とにかくパン屋でも開いていれば何か買って走りたい。しかしいったい何キロ先に店があるのかもわからない。


点と線
ヨーロッパの町を例えるときに使う。
町が点で道が線
日本のように町が繋がっているという感覚はない。
だから点を終えると線を進んで次の点が来るのを待たなければならない。


ポケットにはさっきもらったピーナッツとドライフルーツ
クレジットカード以下のサイズのビニール袋が2つのみ
腹の足しにはならないが食うしかない
塩分もかなり抜けているのかピーナッツが美味い。プルーンも嫌いじゃないが日本では好き好んで食べることもない。
しかし今食うと本当にうまい、もっともっと食いたい。
エネルギーの足しになってないのは体が一番知っている・・・
雨が降りだし、厳しさが増す。
背中ポケットからレインジャケットを取出し羽織る。
普段なら手放しで何の問題もないのに、それすら辛い。いったい俺はどれだけ消耗しているんだ・・・
それにコースも登りをすごく感じる。通り抜ける小さな町(村?)ではパン屋など店が目につかない。
止まっても仕方がない、走るしかない。


一体どれぐらい走ったのだろう、コース上にパン屋を発見
行き過ぎてしまったがすぐにUターンし、チョコレートのパンやレーズンの菓子パンなど買い込み、走りながら食べる。
焼き立ての美味しいパン。生き返る・・・
しばらくすると体が温かく感じ始める。太陽が徐々に高くなっているだけじゃないのはわかる。
急に思考能力も回復。
ここまででも考えていたつもりだが、逆に思い出してみろと振り返るとハンガーノック以降の記憶は断片的。
きょろきょろとパン屋を探しても発見できなかったこと、あと雨で寒いな、そして登りが辛いな、スピードが出ないなと感じていたことぐらいか。

しばらくすると小さなパックに合流しカルエクス・プルゲのコントロールポイントに到着
今までランニングし、すべてに血走っていたコントロールポイントだが、到着した時にはサポーターたちはいるものの、今までのような殺気立ったものはほとんど感じない。そして自分にも、なくなっている・・・
自転車は決められた柵に置き、「歩いて」行く。先頭グループの時なんか棚に置くのは至難の業だったのに
スタンプを押してもらい、トイレで小便。そしてついでに併設しているレストランでパスタを食べることにする。
「おお!やっと仕事ができる!」
そうレストランのシェフに言われ喜ばれた。
当たり前だけど俺より前の連中はレストランを利用していない。
約19時間ぶりにヘルメットを脱いでグローブを外す。
汗等でベトベトした手を洗い、どこかで使うだろうとポケットの奥にしまっていたウェットティッシュとハンドタオルで手をきれいにする。
ここまで自分でも十分頑張ったし、一度リセットするつもりで手をきれいにした。
指先が滑らないや・・・気持ちいいな

約15分ほどかけて食事。
パスタにチーズをかけただけにする。それにコーヒーとフランスパンひときれ・・・
これ以上止まると動くのが嫌になりそうだし、再びスタートする


525km コルエクス・プルゲ 8月22日午前10時42分 スタートから18時間32分


なんとなく今までの緊張と、今とのギャップに体がシャキッとしない。
走り始めは緩いペースで進んでいく
そうすると後ろから数人が迫り、俺もその「列車」に便乗する
途中まで集団にいた連中だ
俺が一人で走っているのを見て「どうした?」と聞いてくる
サポートがいなくて、って話をすると皆「なんで?どうやって走っているの?」と聞いてくる。
大丈夫か??
と心配してくれるものの、ある程度走れるとわかると「先頭交代しろよ」と必ず要求してくる。
そう、まだオレは「コンペティションの最中」にいるのだ。
ただ先頭グループから千切れただけの話なのだ。

一度ハンガーノックになってからは体のシステムがきっちりと作動していないのか、全然力が入らない。
それでも仕方ない、今の自分の受けている苦痛から抜け出すには、協力してでも1秒でも速くパリに戻るか、すべてを投げ出すしか他ない。


カルエクス・プルゲから約100km近い距離がブレストまであるのに、ここはなんとなくスムーズに走ることができた。
ブレストへ向かう50kmほど手前にコース最高峰のロック・トレヴェゼルがある。
まるでモン・バントゥーのように頂上付近は木があまり生えていない岩がゴロゴロとしている。
標高360mほどの山で多分5kmしか登っていないのだが、イメージ的には10km以上延々と登り続ける峠に感じる。
それほど疲労はじめいろいろな要素が入り込んでいるということか・・・
登ったわりには下り勾配が緩いのであまりスピードがでない。
それでも約6kmぐらいは下っていただろうか・・・


なんとなく霧雨のような天気になり、先頭交代を続けているうちになんとなく見覚えの場所
ああ、もうすぐブレストだな
10年ぐらい遠征で訪れたことがある。このホテル泊まったことがあるな
そして橋を渡り、城塞を登っていく。
たいした登りじゃないけれど、ほかのメンバーについていく気力がなぜかない。
おまけにBRM静岡600で痛めた左アキレス腱も微妙に違和感が出てきた。
折り返し、されどまだ600km「も」残っている・・・
距離は考えず、折り返し!とポジティブに考えよう
スタンプをもらい、またもやレストランへ
今度はパスタとトリの胸肉、コーラ、コーヒーを食べて、復路へと再び走り出した・・・


618km ブレスト 8月22日午後2時38分 スタートから22時間28分



橋を超えると折り返しのブレストはもうすぐ
小雨が降ったり止んだりの天気