2017 SR600四国山脈1-3 大歩危〜ゴール


大歩危からは100kmほど。気持ち的には軽く感じる。が、距離ほどは軽くないのがこのSR600四国山脈
塩塚高原展望所への登り。残り100kmは大きな峠は終わっているはず。しかし何気に県道271号からは標高差800m。前半は緩いが後半は険しい。8kmほどで800m、ということは平均勾配10%か。こんな誰も通らないような道を登らすなよ!と思っていると突然集落が存在する。こんな標高の高い、町から離れたところになんで集落や民家があるんだ!というのが、これまた四国。山村と言う言葉は四国だとなぜか言い得ていると納得してしまう。
少し霧が出てきている。雲の中?少し手前で猿を発見したので、頂上で補給食をリュックから出すのをあきらめる。補給食をリュックから出したところで猿の群れに囲まれた場合、最悪の場合もありうる。これは下るまで我慢か・・・


通過チェック14「塩塚高原展望所 新宮IC」21時27分


下りは結構テクニカルで、手放しでリュックからパンを取り出す勇気がない。仕方ないのでそのまま集中して下っていく。
10kmで700mほど下る。緩斜面区間もあることを考えれば平均勾配7〜8%で下っている。下りは集中力が弱まっているのがわかるのに、集中できない。そして下っているのに身体が妙に火照っている。熱っぽい。自律神経系はマヒしているのか、心と体は同じ場所にあるのにまったくかけ離れた存在に感じる。
下り切った新宮で缶コーヒーを飲む。まぁこんなことぐらいでシャキッとしないのだが・・・
疲れてくると一度完全に自転車を降りたほうが意識が戻る。ストレッチしたりヘルメットを脱いでリラックスしたり。
堀切峠を越えてそのまま翠波高原へ向かう。
登っていると右手の下界には四国中央市の明かりが見える。スタートして初めて「町」の姿を見たかもしれない。いや、あったかもしれないのだが見ている余裕はなかった。しかしやっぱりなかった気がする。
真夜中のアップダウンがすべての体のバランスを狂わせる。気持ちよくフワフワと「楽しいなぁ〜」って笑みがこぼれるような感覚なのに、どんどんと壊れていくのもわかる。



通過チェック15「翠波高原と法皇スカイラインの分岐看板」0時15分


当初のタイムスケジュールからすると大幅に遅れて日をまたいでしまった。
スタートして40時間、ほとんど今までのエクストリームライドを経験してきた経験と本能的な部分でかろうじて自分をコントロールしているような感覚だ。
下りで自分の意思がバイクを抑え込んでいる感覚を持てないあたり、完全に疲れている。
ホテルのチェックアウトもあるので休むこともできない。今はただ前に進む。自分自身を自分自身が動かさなければならない。疲れていないときは、何も意識しないで体は勝手に動くのに。

下りきると新居浜に向けて銅山川沿いを走る。月明りがきれいすぎてライト要らんやろ、と思うほど。そして時間も時間、まったく車に遭遇しない。貸し切り状態の道路だ。
ちょうどガムを噛みだしたからか妙に集中力を増して楽勝でゴールまでいけるぞ、と思ったのだがそんなに甘くない。30分も漕ぐと睡魔が襲ってくる。しかし距離は減り標高も上がってきて、もう登らなくていいと思うだけで勇気が湧いてくる。残るチェックポイントは1ヵ所。サイクルコンピューターの距離もスタートからの距離がほとんどずれていないのでいちいち頭で修正しなくていいので助かる。

574km地点。通過チェック16「新居浜と大川村分岐」があるはず。あれ?スタート前に記憶していた看板がない。でもなんだか見たような看板はあるので一応写真を撮影しておく。
もしかしたらもっと先なのかもしれない・・・
県道6号を横目に先へ進む・・・
そう、ここから迷走が始まる。


ここから別子ダムを越えて大永山トンネルまでは約10kmの登り。集中できていていいスピードで登れている。しかしどこまで登っても看板がない・・・どこだ一体・・・
頂上まできて行き過ぎた、という事実を受け入れざるを得ない。ここにきて冷静にスマホで情報収集して、やはり県道6号の分岐にあることを理解。先に撮影した写真ではだめだろうか・・・いろいろと考えた末、再び下る。
疲労困憊、目は見えているはずなのに下りがまともに下れない。どんどん力が抜けている。
集中、集中、集中・・・念仏のように唱える。声を出さないとこのまま意識が遠くに行きそうだ。別子ダムを越えて下っていると県道6号の看板が見え、看板群になったような場所で指定の看板を探す。

さっき通ったときにはなかった看板がある・・・正確にはさっきは見えていなかった、だろう。
写真を撮れば用はない。すぐにUターンして先を急ぐ。


通過チェック16 「【新居浜高知県⼤川村との分岐】標識の向かい側」04時05分


そして約10km登って再び頂上の大永山トンネル。一体どれだけの時間がすぎたのだろうか。ここからは下りのはずだ。
体力気力ともに底、ペダルの上に体重を乗せてもペダルが下がってくれない。
頂上へと到着。ここからは下ってしまえばゴールはすぐだ。
トンネルを抜けると夜は空けて明るいが、睡魔と疲労で集中できない。無意識にコーナーに入る手前でブレーキをかけて止まろうとしている。さっさと下りきってゴールしたいのだが、意識はそちらに動いてくれない。
いったいどれぐらいかけて下ったのか、時間軸が完全にずれてきていてわからない。
新居浜の町から西条まで国道を走行、大型車がいるので集中しないと危険だ。なのに無意識にペダルを止めようとしたり・・・
集中、集中、集中・・・念仏のように、時には自分に問いかけるように。


46時間23分レシート取得


眠い。ただ眠い。
ホテルで車のカギを受け取りバイクをそのまま車に収納。そして部屋で衣類を脱いでシャワーへ。着ているものを脱げること、シャワーを浴びることが本当に気持ちいい。そしてチャックアウトまでは寝たい。7時から10時過ぎまで爆睡モード。今までの空想、妄想のような現実から解放され、泥のような深い眠りの中に誘われるままに、身体は重い水のような中へ入り込むかのようになめらかに、ゆっくりとそして静かに沈んでいった。


そういえば
最後の銅山川沿いで大永山トンネル経由向かっているとき
「あと少し。もうここからゴールは走ったことがあるから大丈夫」と、頂上まで懐かしく、景色もほとんど記憶通りだった。
しかし
この道を走るのは人生初めて。なぜ知っていたのだろう。
SR600北関東の赤城山の南側を走っているときも同じように知っている道のように感じた。
曲がったときの登りや下り、来たことがあるのか自信がなかったので、あえて走りながら先に「次は緩い左コーナーで登り」と声を出してみた。やっぱり間違っていなかった。
こんな経験をしても最近驚かない。
それがエクストリームなチャレンジの限界まで行き着いた時の反応なのだろうか。
そんな自分の限界をやや越えたような経験を繰り返しても、やはりやめようとは思わない。むしろ自分の限界を越えていくようなチャレンジはウェルカム、また挑戦したいと思っている。




通過予定時刻がどんどん狂っていく
塩塚高原展望台、真夜中に一人で通過するのはなかなか手ごわい。



月明りが明るくてきれいだ


眼下には四国中央市の夜景
ここまで大きな町の明かりがなかったので、すごく新鮮


最後の通過チェック。この撮影ポイントのために行き過ぎたため20kmのロス・・・これがなければあと1時間半ほど速くゴールで来ていた。