LEL2017 Vol.3 もう一人の自分との戦い

masahikomifune22017-10-09



イギリスの天気は気まぐれだ。
いや、正確にはこちらを見透かされているかのような移り気だ。
レインケープを持たずに走る気満々だとゲリラ豪雨のような雨。レインケープからレインシューズカバー、気持ちまでもすべて雨装備をコンプリートさせると青空が広がる・・・
絶対突然ヘルメット被ったおっさんが「どっきりカメラ」のプラカードをもっておちょくったような態度で飛び出てきてくれるに違いない。そんな起こりもしないことを期待しつつカフェテリアで雨をやり過ごす。
先に出たイタリア人も、走り出す瞬間に大雨で結局戻ってきた。
タイの女性二人、きっと往路なのだが時間的に明らかにあきらめていてどこに向かうのか走り出そうとすると大雨でまた戻ってくる。彼女たちは走っている時間と停まっている時間どっちが長いんだ?なんてネタにしながらも、自分も雨に翻弄されている。


雨そして風に振り回される。
ハンバー橋を通過し、気持ち的に結構いっぱいいっぱい。
夕陽をバックに列車を撮影していると数人のパックがやってきた。さっき抜いたスチュアートさんのパックだ。
彼はポーツマス出身で函館在住とのこと。走り方を見ているとスマート、という言葉はあてはまらないが(笑)前に進みたいという気持ちが非常に強いことを感じる力強さがある。オレはどうなんだろう?自分でわかるほどの睡魔と疲労
彼らのグループで一緒に会話をしながら夕陽をバックに闇へと進んでいく。
ルースへ到着。
睡眠も短く、結構体的には消耗している。60時間を超えてもなお走り続けているのは、岡山1200kmブルべ以来。しかしあの時はPCで2時間以上寝たり、疲労と睡魔は激しかったが、あちこちで体も頭も休ませることができた。
正直なところ到着時間は中途半端だ。どう中途半端かというと、ここで3時間仮眠したとして走り始めは一番寒い時間帯。もう少し寝るとしたらかなり滞在してしまう。可能ならば仮眠最大3時間だ。理想は2〜3時到着、そうすれば寒いと言えど太陽が出てきて太陽の恩恵を受けることができる。
寒い時間に頑張るのは体にもよくない。当然防寒の必要も出てくる。そうなると装備も入れ替え。そして暖かくなると再び入れ替え・・・
スチュアートさんと目を合わせると彼は進む気満々。もちろん自分も進むことが前提だが、正直気持ちが体を引っ張っていない。何か別の義務感に体が引きずられているだけだ。
滑りだすように、という例えとは程遠い、なんとなくぎこちなくPCを後にして闇に包まれていく。

闇に包まれた瞬間、自分のライトに照らされた世界のみが現実の世界。これはPBPでも思ったのだが、LELの方が集団で走っているわけでもないしなおさら重くまとわりつくような真っ暗な空気をうごめきながら進んでいるような感覚。今見えている世界はスチュアートさんのライトと自分のライトの世界のみ。しかしいずれにしても真っ暗な闇の世界、自分の支配下にある世界に存在している感覚が薄い。

途中何度か取材の車のライトを感じながら走るが、やはり疲労感マックスで睡魔が止まらない。徐々に力強さを感じるスチュアートさんから離れていく。
「ゴメン、眠くて限界だし自分のペースで先に進んで。」
離れては追いつき、そして徐々に離れていき・・・と思うと止まっている。
ん??
あ!!
スチュアートさん立ち止まって用を足してますか・・・(笑)


しばらくすると、幻か??グラベル区間?舗装路の舗装がない。
こんなところ往路で通ったっけ??スチュアートさんも同じことを言い出したので少なくとも幻ではないし往路で通ってないのは確かだ。
長い、ひたすら長い。
そう感じるのは疲れているからだろうか??多分5kmぐらいはあったんじゃないだろうか。
走っているうちにテンションが上がってきたのか睡魔がとんでいった。これ幸い、ペースアップ。
しばらくするとスチュアートさんが
「ダメだ!眠い!もうダメ。バス停見つけて寝る!」
そう言い切ると同時に「どこ行くねん」って勢いでコースから外れていった・・・
え?どこに行くねん、アテがあるのか??
付き合うには気温は低い。エマージェンシーシートでもあれば寝られなくもないが、今回はサドルバッグに忍ばせていない。走るしかない。まぁテンション上がりまくりでしばらくは問題なさそうだ。今のうちに次のPCまで一気に辿り着きたい。


どこまでも単調な道。曲がりくねった道から直線的な、曲がるときは交差点で直角に曲がるだけ・・・そうしているうちに頭が眠りを欲している。半分睡眠モードの頭ではもうコントロールできない体はどんどん出力を下げているようだ。スピードメーターの数字は絶望的なほどに遅い。

いろいろなことを考えたり歌を歌ったり・・・でもダメだ。そして寝られそうな場所もない。
幸い直線で車が来てもわかるような道。だけどそもそも車は全然来ないのだが。
ゆっくりとスピードを落とし足を地に着く。すると少し落ち着く。
嗚呼、眠気覚ましにガムを買ってきておけばよかった。あとは口の中が多少荒れてでも飴を舐めるとか。あまり糖質が多いと、ずっと舐めていると口の中がすごく荒れてくる気がする。

ふと気づくと意味不明なことを自分で考えながら走っている。
PCまで残り30km、あと30kmなんだしUターンしても一緒だろう。Uターンしよう・・・いやいや、Uターンしてはいけない。こんなあたりまえのことがわからなくなる。
何が気になるのかわからない。無性に後ろを向きながら走る。オレはレースで逃げているのか?しばらくすると遠くに見える工場のライト。それは理解している。しかしそれが突然左右にシェイクし始めた。もしかして誰か追いついてきたのか??スチュアートさん??
足を止めてみる。やっぱり工場のライトだった・・・

壊れていく、壊れていく、どこまでも底なしに壊れていく・・・それはわかる。
今自分の中に、壊れてムチャクチャな自分、そして壊れかけているが、理由も何もわからないが、とにかく前に進むことが正義だということだけ知っている自分が混在している。
意味もなく道路に面した家の敷地にノーブレーキで突っ込んで行って
「そうだ!ここはPCだ。PCにしよう!はい、ここPC!!」と敷地内に突入しては壊れて切っていない自分が
「理由はええから進もう。な?進もうや」となだめすかして進もうとする。なぜ敷地に突入したのかもわからないが、進もうとする自分に同調する。これは言ってみれば二人が混在している自分のルール。このルールを保っていれば、とりあえずいいのだということだけ理解している。

何を自分で考えているのかもわからなくなる。整理がつかない。そしてフラフラと走っていて歩道の段差で落車。スピードなんて言えるほどのスピードじゃないが、身体が落車前に準備できていないので痛い。ああ、レッグウォーマーの膝が破けて膝から流血。
その瞬間、目が覚めた。
後悔の念、痛み、興奮?
さっきまで自分の前にうろちょろとしていたもう一人の自分は、いま近くにはいないようだ。今のうちに1kmでもPCに近づくべくペダルをこぐ。アウタートップにして、とにかくゆっくりとでもいい、ペダルを漕ぐ。
自転車は漕がなきゃ進まない。逆に言えば漕げば必ず辿り着く。
漕がないことへの言い訳探し、それが疲れた時にみんなが行きつく答え。しかし理屈はない。漕ぐことしか自転車には理屈はないはずだ。それが今まで数えきれないほどペダルを漕いでここまで進んできたことの結論だ。

PCには予定していたよりも大幅に遅れて到着。そりゃそうだ、途中で道沿いの家に突然突入したり立ち止まったりしながら進んでいたのだから。
撮影でカメラがこちらに向くが、表情を作るとかどう喋ろうとか考える気も起らない。
無造作に食べ物をとっているが、取りたいのかどうかもわからない。今したいことは、寝たい。ただひたすら、どこまでも、果てしなく、すべての衣類を脱ぎ捨てて死ぬほど寝てみたい・・・


雨が降り出して雨装備にするとあっという間に快晴に。
レインジャケットが乾いて奇麗にたたんでポケットへ収納すると、雨・・・
イギリスの天気は読めない



晴れているときは、前に進まねば!



往路と同じくハンバー橋の上で撮影📷



ハンバー川を撮る。


とてつもなくきれいな夕焼けタイム開始


陽が傾いたと思ったところからもまだまだ
緯度が高いところならではの夕焼けだ


いよいよ2回目のナイトランが始まる



走り続けていると、意外かもしれないがやりたいことのひとつに歯磨きがある。
これだけで体の熱が抜けていくような気がする