パリ〜ブレスト〜パリ その6

まるで歩いているかのようなスピード
闇の中で自分のスピードは把握できていないが、体感的にはかなり遅い
声を出そうにも眠すぎて声が出ないし、何をすればいいのかも頭が働かない
せめて飴ちゃんが残っていたらなぁ・・・全部食べてしまったし・・・
ダメもとでポケットを探っては何もなくて途方に暮れる。そしてまた探す。何も出てこない・・・
でもなんとなくポケットを触りまくる。でてきたらラッキーやん、と
!!
ある・・・
飴ちゃんあるやん!!
何であるんやろ、これって幻覚??


消えてしまう前に大急ぎで口に含む
ジワ〜ッと糖質が口に広がる。
そして脳が活性化されていくみたいだ。
飴が無くなるまでに町にたどり着けないかなぁ〜、と思っていると急に明るくなり、前に人が立って右に誘導している?
なんだ??幻覚か??
よく見ると復路のシークレットポイントのようだ
ひとまずは自転車から降りられる。
シークレットには1時10分過ぎに到着
ひとまず眠気覚ましにコーヒーを飲もうとオーダー。
そして横になりたいと仮眠場所へ
おっと!すごい雨だ!まさに豪雨!
すぐに自転車を屋根の下に置き、雨がやむまで仮眠と切り替えよう
着替えはないのだからきっとその方が賢明だ。
これが俺のオレに対する言い訳・・・
ただ今1時18分、目覚ましを2時半にセットして横になる。
コーヒーを自分の横に置く
と同時にすべての機能がスリープ状態になった
というよりも、たぶん俺の限界、ノックダウンだ・・・


デカいハエが体の周りを飛んでいて鬱陶しい。目覚ましが鳴る前にハエに起こされた
と思って時計を見たら3時38分!!
ん?目覚ましは??
そんなことを考えている余裕はない。
すぐに起きてダッシュで走行開始
路面は濡れているが雨は止んでいる。

2時間以上も体の機能を停止し、少なくとも睡魔や幻覚からは解放された。自分でも恐ろしく物事を冷静に見ている。
体は決して軽くない。長距離の疲労と言うよりもハンガーノックを思い切りしてしまったせいで、体のキレがなくなっている。回復はしていない。

しばらく走っていると後ろからすごい塊がやってくる。
パリをスタートするとき近くにいたドイツのチームだ。
バイクもサポートされており、メンバー全員がSRMで出力管理をしながら走行していると言っていた。
平坦はずっと40km/hほどで登りは勾配に応じてリーダーらしき選手が後ろから指示している。
登りでも平坦でも極力出力差をなくす走り(特に登りで上がらないように)にしているようだ。
おかげで眠気も微妙に冷めて、気が付いたらコントロールポイントのタンテニアックに到着する


867km タンテニアック 8月23日午前5時22分 スタートから37時間12分


日はまだ明けない
なんとなくさっと飯を食い、このドイツチームより先にスタート。
彼らは大所帯すぎるのか、休憩してスタート時間を決めているようだ。
ルディアックでもそうだが、どうもグループライドの連中は休憩時間を20分とか30分と決めているみたい。
しかし時速30キロで走っても休憩時間30分だったら75kmを平均で5km/h落ちる計算。
なのでこっちは速攻でサンドウィッチとミネラルウォーターを買ってそのままスタートする


さすがに一人だとスピードは上がらない
誰か後ろから来てくれればいいのに、と他力本願な考えで進む。
一人で走っているとまた睡魔が襲ってくる。もう慢性的に眠いことは変わらないようだ。
だがさすがに幻覚を見るってことはない。
そうしているうちにあたりは明るくなり始め、フージュールには一人で走り切って遅かったもののあっけなく到着。


921km フージュール 8月23日午前8時09分 スタートから39時間59分


もうそろそろ先頭グループは最後の追い込みなんだろうなぁ〜と考えると、すごく寂しい気持ちと悔しい気持ち、そしてもう別にタイムにこだわらなくてもいいかなぁ〜という気持ちに包まれる。
この時点で50時間以内の目標は不可能に近いし(残り300kmを10時間・・・)とりあえず完走でええやん、どんどん気持ちがネガティブになっていく。

少し前方にスウェーデン人たちのパックを発見し合流。
最初はなんだかしっくりと来ない感じだったが、そのうちに意気投合し一緒に走り始める。
どうもリーダー格の選手がいるようだが、彼は全然引けず引っ張って行ってもらっているようだ。
おかげで登りも速くないし、平坦もつきやすい。
そのうちに先頭交代一緒にしようということになり、ローテーションに加わる。
なんとなく気づいていたが、ローテーションに参加している方があまり眠くならないようだ。
最悪は一人で漕いでいるとき
その次はずっと後方でついているだけ
ならばなるべく先頭に出る方がいいみたいだ


しかしヴィレンヌ・ラ・ジュエルまで20kmぐらいのアップダウンコースでリーダーが完全にグロッキー、すごい勢いで千切れて距離が開いてしまった。
先頭交代する連中に「友人、後ろ完全に離れたけど」と伝えると
「俺に友人なんていないよ」と笑いながら言われる。
は?
他の連中にも言うと同じ答え・・・
「知り合いなんていなかったよ、最初からこれだけのメンバーだ」と笑っている
結局完全に放置状態(?)でそのままヴィレンヌ・ラ・ジュエルに辿り着いてしまった・・・

往路の時にコントロールまで必至でランニングしていたのが懐かしい。
バイク置き場も往路のような殺伐とした雰囲気はない。
観客は多いが、みな暖かい拍手と応援のみだ。
スウェーデン人だちもきついのか、数段の階段を片足ずつ引きづりながら登っていく。
ひとまずトイレで小便。トイレに入るということも往路では全くなかった。本当にレースだった。
しかし千切れてからの復路は、レースというよりも小気味いいファーストラン。
往路の時のように10秒とか1分以内のマクロでは物事を判断していない。


スタンプをもらってそのままレストランへ直行し、ライスとラタトゥーユを混ぜて食べる
あと200km「ほど」
たったの200kmだ・・・たったの


1009km ヴィレンヌ・ラ・ジュエル 8月23日午前11時46分 スタートから43時間36分