パリ〜ブレスト〜パリ その5


ブレストからはいきなりの登り基調となる。
町の中が結構な登りで、出だしから頭をハンマーで殴られたかのようだ。
なんとなく意気投合したフランス人と一緒に走るも、いまいちな感じで先に行ってもらう。
しかし信号や下りを利用してロック・トレヴェゼル入り口の町で合流。
そして気が付いたら前のグループに合流し約10人のパックになる。


ロック・トレヴェゼルの上りは急勾配ではないが、ダラダラと続き精神的に辛い。
頂上らしきポイントが遠くに見えているので、ビジュアル的にもしんどい。
たかが360mの峠なのに・・・

このあたりだと前からたくさんの選手がやってくる。日本人がわかったときはなるべく応援するようにする。
頑張れ!と言う気持ちもあるが、見つけ出すようにして応援しないと、ふと寝てしまいそうになる。なんとなく集中できていない。
ロック・トレヴェゼルからの下りは上った距離以上に長く急勾配に感じる。
クラウチングスタイルで下ると60km/hなんてあっという間。
こんな時に寝ないように集中しなければ・・・寝たら取り返しのつかないことになる
みんなで先頭交代して再びカルエクス・プルゲに到着。気持ち的には上ったわりには速く感じた。
しかし実際は往路とほとんど一緒だった・・・


703km カルエクス・プルゲ 8月22日午後6時33分 スタートから26時間23分


一緒に辿り着いた連中は、ここで少し休憩をして一緒に走っていくという。
一緒に行くか否か
悩んだ末、先行して自分が遅い場合は追いついてもらった時に便乗しよう、と先行。
次のルデアックは80?先だし、補給なしではきつい。
スタートしてすぐにまたまたサポートの人に声をかける。
60歳ぐらいの夫婦、それにその友人らしき同年代のおばさん

「日本から参加していてサポーターがいないんだけれど、何かもらえないですか?」
そういうと水をもらえ、コーラとバナナが見えたのでお金を払うから、というと
「ノン!あげる!あとタルトもあるしパンもあるわよ。自転車は置いてこっちへいらっしゃい。まずはきちんと休まなきゃ」
そういって半ば強引に自転車から引きずり降ろされ(笑)椅子まで用意され、まるでフルサポートで走る選手気分。
多くのセカンドパック以降の選手は、こうやってサポーターが補給食を渡して走り出したり、定期的にコントロールポイント近く(コントロールポイントの前後1kmぐらいはサポートが可能らしいと聞いた)で小休止を取っているようだ。
恐ろしいまでの致せり尽くせり!
今まで体の中に何も入っていない、まるで完走したスポンジに水を含ませられていくかの如く、どんどん体内にエネルギーが注入されていく。
結局15分ほどは休み、ポケットの中も満載。思いがけずリフレッシュした。


後続に吸収されて再びローテーション開始。
ちょうど往路で千切れた付近もいい感じでクリアー。ハンガーノックじゃなかったら離れるような場所じゃなかった。
ルデアックまで残り30kmで急に雨が降りだし、雷が鳴り響く。
止まるのか進むのか
しかしこんなだだっ広い場所で仮りに木の下に避難しても、きっと雷は落ちるだろう。
それだったら走り抜けるしかない。
せめて俺には落ちないよう、気持ちだけ頭を低くして走る。無駄な抵抗とわかっているが・・・

ローテーションがスムーズで頑張れたからか一緒に走っていた連中からこのまま一緒に行こうと誘われる。
俺にとっても悪くない。
ルデアックに到着すると
「あと20分後に表の通りで落ち合おう」
と言われる。
往路の人が多すぎてレストランは大渋滞だが、しかしここで食べておかないときつそう。
並ぶのに10分費やすが、ここでパスタとスープを食す。


782km ルデアック 8月22日 8月22日22時10分 スタートから30時間


とりあえずお腹いっぱいになる。
次もコントロールも80kmほどなので順当にいけば補給食なしでたどり着けるだろう。
8人ほどのメンバーでタンテニアックを目指す。
ルデアックの町を出てすぐに、急に睡魔が襲ってくる。
せっかく待ってもらったが、ついていくことができないぐらいに・・・
後ろについていても徐々に離れるのではなく、気が付くと10メートル、追いついてしばらくするとまた20メートルと、体に力が入っていない。
2回目の闇が始まったことで、俺の睡魔も始まったようだ


徐々に離れていき、気が付いたら一人
完全な闇の中、自分のライト、そしてはるか遠くに先行する選手のテールライト、時折はるか後方に迫ってくる選手のヘッドライト、そして往路の選手のライト・・・
そしてよく目を凝らすと往路の選手でかくれんぼをしているかのようにあちこちで仮眠している。
テールライトをつけっぱなしのバイクの横の方で、うっすらと光る反射ベスト・・・
ああ、あんな所でも寝ている人がいるのか・・・
中央分離帯や人の家の玄関先・・・
ほんの少しの光がいろいろなことを想像させたりする
中には往路の選手で居眠りしているのか、こちら側に寄ってくる選手もいる
顔は見えない、明かりだけだ
明かりから想像するしかない・・・


ふと自分でもフラフラ走っているのがわかるほど睡魔に包まれ始めた。
小さな町に入ったのでここで意を決して寝ようかと思ったが、そう思うと走れそうなレベルにも感じられる。
ひとまず止まって足のロキソニンサロンパスを張り替えて走り出す。


・・・ああ、やっぱり急がなきゃよかった・・・
ペダルに全然力が入らない。
もう寝られる場所などないほどの真っ暗闇

すると突然横に日本人サイクリストが現れて併走開始
「三船さん大丈夫ですか!相当眠そうですね。フラフラしてますよ!もし寝るんだったら寝られそうな場所を探してきますよ」
おお、有難い!よく見たらうちのチームのメンバーじゃないか!
今どのぐらい眠いか事情を話し、若干上から目線で寝られそうなところを探してくるよう指示。
するとしばらくすると
「この先どこにも寝られるところないですねぇ〜〜もうちょっと見てきます」
すごい勢いで走り去った後、全然帰ってこない・・・
あまりにも帰ってこないので少し路肩があるところでペダルから足を外して停止
足を着いたらフラついて倒れてしまった
その時に
「なんで○○がここにいたんやろ・・・今日本におるしおるわけないやん。俺はいったい誰と喋っていたんやろ」
と、リアルの世界に戻ってきた
深く考えても仕方がない。先を急ぐしかない。ここじゃ寝られるわけがない。
雨がポツポツと降ってきた
もしこんなところで倒れたら、それこそビショビショでえらいことになる・・・
脚に力が伝わらないが、それでも前に進むしかない・・・
俺は再び闇へ進んでいく・・・