パリ〜ブレスト〜パリ その3


フージュールを通過して集団は50人を切っている。多分45人ぐらいか

よく見ると俺と同じ1500番代のゼッケンではなく、一桁から三桁までの選手しか目につかない。
と言うことは集団にはフランス人しかいないのか??
そりゃこれだけ完璧なサポートなど、よその国の選手で行うのはかなり難しいだろう
アメリカや日本など遠方から参加の選手で満足なサポートを受けるのは難しい。
せいぜいスペインやイギリス、ベルギー、ドイツ、フランスなどぐらいか・・・


さっき購入したバナナ味のシリアルバーを食べてみる
うっ、まずい・・・
グニャグニャで中途半端に硬いバナナを食べているようで、飲み込むのも難儀する。
吐き出したい気分で飲み込めず、涙目になりながら飲みこむ。
これも少ないエネルギー源、口にするしかない。
ポケットにはあと2つもある。これもなんか自己嫌悪だ・・・

結局3本とも食べたが、流し込むだけ。
エネルギーを入れたかもしれないが、精神的にはかなり消耗した・・・


暗くてあまりよくわからないが、多分登っているか
景色が見えない、まったくのまっくらだと登っているか下っているのかわからない。
ペダルを止めても進むなら下り、回していたらすべて登りに感じられる。スピード感はない。
時間的にも睡魔がフゥ〜〜っと押し寄せてくる。
最後尾を走っていると、突然前の選手が10メートルや20メートルほどワープするかのように遠ざかる。
多分ボォ〜っとしながらペダルに力が入っていないのか。
意識しても意識しても定期的に集団から距離が開いてしまう


突然横のフランス人選手が話しかけてきた
「イングリッシュ?」
ああ
そういうと
「やっぱりイギリス人か」
そっちのイングリッシュか。
いや、違う日本人だ。
そういうと驚かれた。
それは俺が日本人に見えないということか・・・まぁ見えないだろうな
ベルギーで選手で走っていたころに、どこからどう見ても日本人な妻に
「あなたの旦那さんはコロンビア人ですか?」
と聞かれたりしていたそうだ。
さすがにイギリス人に見えるという感覚は分からないが・・・

そのあとにも他の選手にフランス語で「スペイン人か??」と聞かれ、なんかとっさにスペイン語で「ノー、ハポネス
」と答えてしまい、絶対俺胡散臭いやろ・・・と自己嫌悪に陥る。


話しかけてきた選手と片言の英語、フランス語で会話をして走る。
喋っていくうちに、サポーターがいないのになぜ80時間のカテゴリーに走っているの?ということらしい。
なるほどな、このパリ〜ブレスト〜パリで先頭を走るこの80時間というカテゴリーは、昔ながらのロードレースのスタイルをいまだ継承しているかてごりーなのだ、と思う。
建前上はレースではない、着順を発表しないし表彰しない、ただのツーリングイベントという考えだが、それでもアンダーグラウンド的にはちゃんと誰がどうかということは争われているようだ。
多分ここにいる連中はほとんど知り合いだったりで協力したりして走っているに違いない。
だからポイントごとに揺さぶりをかけて、知らないやつらを落としてきたんだ。
多分10人を切るまではこんな感じだけど、自分たちも辛い思いをしないように800〜1000kmまでは淡々とこの走りが続くのではないだろうか・・・
まだ雰囲気的には何人かの選手は協力しているのは分かった。

タンテニアックの町が近づいてくる。
なんとなく登り貴重だ。
少し位置をあげて中盤ぐらいで様子を見る。
可能であれば目立たぬよう、このまま淡々と走り続けたい。
だが毎回コントロールで前に出てくれば、いい印象はもたれないだろう。
しかしかといって後ろにいれば補給をゲットするための時間を確保するのは難しい。
町に入ると結構激しい位置取りになる。
そして気が付いたら町の中で危険回避のための先導オートバイが道を間違えてUターン。
ほぼ先頭だったのが最後尾になり焦るが、コース脇から一気に前に上がる。

タンテニアックのコントロールは道から結構奥まったところだ
通路のようにフェンスで道を作ってあり、スタッフが溢れかえっている。
結構いい位置でスタンプをゲット。
再びスタッフの人たちに補給を聞きまわり水と食べるものをいくつかゲットする。
たくさんではないが何とかなりそうだ。
なんか何とかなりながら(笑)ルデアックを目指す。


364km タンテニアック 8月22日午前4時0分 スタートから11時間50分


町を抜けて再び小便
この時間を利用してさっとチェーンオイルをサドルバッグから取り出し注油、そして少し右アキレス腱に違和感があるのでサドルバッグを開けたついでに痛みどめのロキソニンテープを貼る。
しかし焦っているからきれいに貼れず、ちょっとぐちゃぐちゃになったけど走り出す。
さすがにチェーンオイルをさしているとみんな注目している・・・
しばらく走ると突然係員が道の真ん中に立ち、右に入るよう誘導
どうやらコース上にいくつか設定されているシークレットのコントロールポイントのようだ
集団の真ん中あたりでコントロールポイントへ
ここでは誰にもサポーターはいないので補給もない。
みんな小走りでスタンプをもらいに
ここでは係は2人のみ。そこに40人ほどが殺到し、順番も何もない状態。
並んでいると肘で軽く押しやられ、ムカつくので押しかえてやる。
そしてブルベカードを係員に差し出すとその上にカードを載せて先にハンコを押されてしまう。
そうこうしているうちにかなり後ろになってしまうが、何とかスタンプをゲット。
ここは集団もペースを上げてはこないのですんなり追いつける。


比較的単調な道を進むが、朝が近いからか睡魔は落ち着く。
ちゃんと明るくなり始めると走るのも楽になるろうか。
気温も朝方は一番冷えるのだが、思ったほどの冷え込みではないことも走りやすい要因か。
集団は何度か数えてみたが40人弱。
走りやすくなったのは集団がコンパクトになったことも関係があるのかもしれない。
徐々に449?地点にあるコントロールポイントの町「ルディアック」が近づいてくる。
ざっくりとコースの3分の1、ここにたどり着いたときのフィーリングや体調でゴールがイメージできるのではないだろうか。どういう思いで走ってきた。
ここは少しだけ位置取り的な展開があったが、ほぼ簡単に10番以内の好位置でコントロールポイントに向かう。

他のポイントと比べても観客や声援が多い。
そして道から建物まではシングルトラックにフェンスでコントロールされているので、今までのぽんとロールポイントとは違うのかな?と感じる。

自転車をラックに置こうとすると各選手のサポーターが邪魔で自転車すら置けない。
サポート付きの選手たちが通路でバイクを受け取ってコントロールポイントへ走り出す、というだけでもハンディなのに、ラックにサポーターが邪魔で置けないというのもハンディだ。
まずはサポーターたちの隙間に自転車をねじ込んでラン。
相変わらず微妙に遠いのでランするのもレーサーシューズだと結構足のの負担は大きい。

スタンプをゲットして出てくると、自転車がない・・・
え?盗難??

サポーターの隙間に置いたのに・・・

約数メートル離れたところに俺のバイクを発見。
まだ微妙に暗い。もしテールランプを消しておいていたら絶対発見できなかっただろう。
スタート前にいろいろな人に補給食をもらおうと聞いてみるが、バイクを探すのに手間取ったこともありなかなかゲットできない。
選手の奥さんっぽい女性に聞いたら何もありません、と何か袋はもっているの言われた。仕方がないか。
隣の他の選手のサポーターに聞くと500mlペットボトルをもらう。
するとさっきの女性も「これだけしかないけど」
と小さな袋に入ったドライフルーツやピーナッツを差し入れしてくれた。

さすがに何もエネルギーになりそうなものがないので、多くの人たちにもっと粘って聞きたいが、これ以上粘ると集団に追い付けない。
仕方なく前を急ぐ・・・
これが仇となった


449km ルディアック 8月22日午前7時09分 スタートから14時間59分