パリ〜ブレスト〜パリ その2

なんとか先頭グループ10人弱で俺は登り切ったものの、まさかみんな頂上でサポーターがボトルや補給食を渡すなんてことは考えもしなかった。
その横にはレストランがあり、食べ物や補給食をゲットできる。
が自転車を降りて行く必要があるため、実質勝負を取るのか、それとも食べ物を取るのか・・・
両方取れないのが歯がゆい。
が、食べ物を取らないわけにはいかない・・・人間として考えたら捨てられるのは勝負、俺個人としては大事なのは食べ物よりも勝負・・・

失意の中、町の中心を抜けて下っていく。

下っていると右手にキャンピングカーが止まっており、夫婦がイスとテーブルを出して座っており、水のペットボトルが見えた。
「!!」
とっさに、本能的に全開でブレーキング。
「すみません、水いただけますか?俺補給スタッフいなくて出場しているんですよ」


聞くのと同時に俺は既に自分のボトルを開けて水を入れる準備
彼らもあっけにとられてOKと言ってくれた。
ボトル2本ともに水を入れている間、奥に500mlのペットボトルコーラが見えた
「すみません、あとそこのコーラいただけます?」
水2本、そしてコーラをゲットし再び走り始める。
このまま先頭で勝負をしたいのだから手段は二の次
物をもらうことも含めてすべてが勝負だ。そう割り切る


先頭グループは彼方だが、第3グループぐらいで先頭グループを追う。
先頭もスピードは上がっていない。10人ほどで走り抜ける気はないらしい。
俺のいる後ろの2つほど後ろのグループは合流したようだが、それが最終便か・・・
およそ70人ほど
最初のコントロールポイント「ヴィレンヌ・ラ・ジュエル」を目指す。


徐々に暗くなってくる
日本だとスタート時に反射ベストの着用が義務つけられているが、先頭グループでは着用義務がないのか来ていない選手も多い。
西の空は恐ろしいほどに赤い夕陽、思わず見とれてしまうほどだ。
暗くなるにつれて多くの選手がポケットから反射ベストを取り出して着用、テールライトもつけ始める。
ヘッドライトは多くの選手がギリギリまでつけないが地面と言うよりも標識へ向けて、やや上向きに設定している選手が多い。

とうとう闇に包まれる
軽く向かい風が続くのかスピードは相変わらず時速36キロぐらい巡航で登りはそれほど速くない。
今後どれだけの食糧を確保できるかわからない。だから先頭にはなるべく出たくはない。
あと15キロほどでヴィレンヌ・ラ・ジュエルの町、1回目のコントロールポイントだ。
するとまた徐々にペースが上がりはじめ、携帯で喋る選手が増えてくる。
そしてリーダーのような存在の選手がしきりとフランス語で選手たちに伝えている。
なんとなくだが、町を抜けてからトイレ休憩をするからな、ということのようだ。
またさっきの補給地点のような感じになるのか?
とにかく集団内で少しずつポジションをあげていく。


町に入る。
急に位置取りが激しくなる。
観客も多く、結構ギリギリのラインで走っていく。
まるでツールか何かを走っているようだ。
すると目の前にコントロールポイントが見えてきた。
位置取りをしつつ、俺は先頭にならないようにコントロールする。
まだコントロールポイントで何をどうするのか理解できていないからだ。
皆自転車をサポーターに渡して、すごい勢いで走っていく!レーサーシューズでランニングだ!
スタンプを押してもらう場所まで約40メートルか
俺はラックにバイクを置こうとするが、各選手のサポーターがラック付近を完全占拠していて自転車を置く場所すらない・・・
係員に注意されるも強引に階段付近に立て掛ける。サポーターがいないことでこんな大きなハンディだとは・・・
少し遅れるがランニング距離が長いので先頭に迫る。
が、抜かないように注意。ここで抜くとみんなの動きがわからなくなるし、何よりテクニックを盗めない。
ここで3〜4列に分かれて通過のスタンプを押してもらう。
スタンプ、そして通過時間を記載されたら再びランニング開始
正直生まれて初めてこんなにレーサーシューズで本気のランニングをした・・・


バイクへ戻るとほかの選手たちは補給食からボトル、そしてどうやらバイクのメンテまで終えているようだ。
俺はまたほかの選手のスタッフたちに
「今回日本からノーサポートで走っているんだけど、もしよかったら飲み物とか食べ物とかもらえないか?」
と聞いてみる。
結構多めのサポートを持っていたスタッフが
「水入れてあげるよ。バナナはいるかい?あとこの補給食持っていきな。これだけはあげられないスペシャルなもの。あとは好きなだけいいよ」
と、親切に補給をいただいた。
とにかくポケットと口に詰め込んで、水を入れたボトルにはシトリックの粉を溶かしてスポーツドリンクに変身させる。
この間多分2分弱。
走り出すと前にパラパラ走っている選手たちを発見。
そのまま追いつき追い越し、前を急ぐ


221km ヴィレンヌ・ラ・ジュエル 23時10分 スタートから7時間


町を抜けるとみんな小便タイム
やはり誰かが上位を走る選手たちをまとめ上げているようだ
雰囲気からするとゼッケン0004の彼か・・・
ゼッケンの若い番号はすべてフランス人
とすると若くない番号は俺ぐらいしかいない・・・
この時点で50人ほど。また目減りしたようだ

次のコントロールポイントは310km、フージェールだ。


走り出してすぐに補給食を口にする。みんな食べているので集団はリラックス。時速30キロ強ぐらいで巡航している。
日本から持ってきた黒糖のど飴は定期的になめるようにして糖質を枯らさないようにする。
この間は結構退屈な区間が多い。
加えて日本からの時差ぼけの影響としっかりと寝たわけではないからか少し睡魔が出てくる。
油断していると集団からふと位置が下がっていたりする。

登りでダンシングしていると、集団の前方で金髪の白人女性が一糸まとわぬ姿でこちらを見ながら踊っている。
そして集団を左右にジグザグしている
なんかわかんないけれどエロいネエちゃんやなっ!
ずっと見ながら立ちこぎで登っていく
しかし恥ずかしくないのかな・・・
ちょっと気になる。
裸なことに気になるが、そこにいることには違和感は感じない。
そのうちふと「なぜあの女性は後ろ向きで俺たち集団と同じスピードで走りながら裸で踊っていたんやろ・・・」
と、何か違和感を感じ始める。だがこの時点ではまだリアルとフェイクの区別がついていない。自分でも驚くほど・・・
しばらく走ると女性は消えていた・・・いつ??

急に睡魔が遠ざかっていき、さっきのは夢なのか幻覚なのか・・・
激しく自己嫌悪に陥る
いったい俺はどうやってここまでぺダリングしていたんだろ・・・ほとんど記憶に残っていない。


フージェールの町が近づくと再びペースが上がる。
暗いからだけなのか、なんだか延々と登っているようにしか感じない。
1回目のヴィレンヌ・ラ・ジュエルでだいたい何が起こるのかは理解できた。
今回もなるべく前でスタンプをもらい、ピットにいるほかの選手のスタッフに何かをもらうだけだ。
今度も5番目までにスタンプゲット。
バイクに戻る前に売店があったのでシリアルバーのようなものを3個購入
そしてバイクに乗り途中に止まっていたサポーターの車から水を分けてもらう。


310km フージェール 02時09分 スタートから9時間59分



モルターニュ・オー・ペルシュを通過して集団はコンパクトに



152kmを4時間41分、向かい風だと考えると悪くないペースだ