松江のビジネスホテルは参加者でシェアをすることになっている。
基本「宿泊」するわけではなく、仮眠して出発するまでの場所である。
小さな部屋に雑魚寝で3人、川の字だ。
一人はよく近畿のブルベで見かける青年だ。
2時半ごろに起きると既に相部屋の2人は既に出発し姿も気配もない。
昨日買っておいたパンを食べ3時過ぎ、真っ暗の中をスタート。
ずっと気温も高いし湿度も高いので、この時間が一番体に負担が少なく走りやすい。
暗いことだけを我慢すればいい、暑いことを我慢するよりも何倍も楽だ。


鳥取県に入るまでは約1時間。
中海ぞいの平坦コース、安来を通るルートだ。
平坦だが微妙に上っているように感じるのは回りの景色が見えないこと、そして連日の疲労からか…実際は上っているというレベルではない。というか上っていない…
鳥取県に入る。
まだ暗くて見えないがしばらくは右手に大山があり、吹き降ろしの風が中心。
追い風だったり向かい風だったり…平均すると追い風かも。
時速30キロ強で進んでいくが、ところにより風の影響で30キロを微妙に下回ったりもする。
陽が昇るまでにどこまで進めるのかが鍵を握るだろう。
前にサイクリスト発見。
昨日大浴場で一緒になった方、オレより少し前に宿に到着したそうだ。
まだ暗いうちに彼をパスする。
しばらく走ると徐々に明るくなり始める。
出発するときにパンを2個食べたが、約2時間ほど走りそろそろ小腹が減り始めたし股擦れ対策のワセリンも切れてきたし、丁度良い頃合い。
道の駅、ポート赤碕にコンビニが合体しているのでいい感じ。
ここで小休止。
ボトルに水分補給、氷も詰め込む。
簡単な補給食を買ってポケットに押し込み出発。
多分この日、スムーズに走れたのはここまでだったかも知れない…
陽が上がらないうちで気温が低かったこと、大山からの吹き降ろしの風が、微妙に追い風に感じたことなどが要因だったのか。


陽が昇ると途端に気温と湿度が上昇していくのを肌で感じる。
まだ7時台、それでも不快指数が相当高い。
いくつかの小さな起伏を越え、白兎海岸に辿り着く。
が、異常なほどの気温・湿度の高さ!
通過するつもりだった白兎海岸のコンビニで止まる。
うどん屋がコンビニの中にあるので、ここでうどんをオーダー。
うどんを食べるのが目的ではなく、エアコンと水で体を冷却するため。
30分以上は滞在した。
早朝なのに既に熱中症か…


鳥取市内はボォ〜ッとしながら通過、香住方面との別れまでの小さな上りでは止まりそうになる。まったくといいほど前に進まない。
途中でなんとなく気がついたのだが、暑さでアスファルトが相当緩んでいる。
タイヤが路面に食い込んでいるような感覚だ。
そして暑い!!
この日一番暑かったのはここだったかも!と思う。
とにかく持っているすべての水を体にかけ、飲めるものすべて飲まないと体内のすべての液体が沸騰しそうだ。


山陰本線と別れ、スピードは25キロほど。
スピードだけを見たら「相当」遅いレベルだが、限りなく1,000km連続走行に近い感じで体は熱が抜けていないし、疲労もかなり蓄積している。
なによりも台風直後で湿度も気温も去年の比ではない。とにかくいろいろと想定範囲を越えた出来事が多い気がする。
蒲生峠は高低差も少なく難易度も低いが、ここからリズムがどんどん崩れていくことを考えると、一筋縄ではいかない。実際どんどんスピードが落ちている。

もし普通に練習で通るならば、それこそ30キロ近いスピードでクリアーできるだろう。
だが実際は灼熱の暑さと疲労で25キロ以下。
そして次はなにげに一番復路できつい春来峠。
急勾配が直線で続くのでかなり精神的にプレッシャー。
峠をクリアーし完全に暑さでダウン、コンビニでドリンクと昼食休憩。かなり日陰で涼んで回復に努める。
一番暑い時間だし仕方ないだろうが、もう和田山付近に抜けているというペースで走っていただけに、精神的に追い込まれている感がある。


峠をクリアーし養父へ。
南但馬トンネルを前に体は仮眠状態?っていうほどに意識が集中していない。
自分でも危険を感じ、椅子のあるコンビニへ。
ここで軽食、そしてジュース補給、エアコンで体を冷やす。
養父から県道274、273を使って京都府へ。
思っていた以上に勾配もあるし緩くダラダラと上っているので、当初思っていたよりもスピードにのらず精神的にきつい。
福知山までは下り基調だが平均30キロほど、そして福知山市外が近づくと花火大会渋滞で路肩も走りにくくなる。
市街地直前のコンビニで氷やドリンク補給、次は京丹波までは一気に行きたい。

福知山からは微妙に上っているルートで、調子が悪いとまったくスピードにのらず、かなりきついコースだ。
交通量も多いし、遅ければ遅いほど疲れるコース。
去年はきついと言いながらも今年のような「低速」はほとんどなかった。
それだけ今年は暑さが影響しているのだろうか…


丹波まで来るとあと少し。
こちらからだと観音峠もたいした高度ではない。
逆に下りきってからの平坦のがダメだしのような感覚できついだろう。
峠の入り口の自販機でジュースを1本だけ買いゴールまでの最後の補給にする。
上りは苦しみながらクリアーするものの、下りは他府県の車が多いためか遅く感じる。

平坦では股擦れの痛みもピーク、低回転でひたすらペダルを回していく。
陽がどんどん傾き始め、明るいうちにゴールできると読んでいた気持ちを覆され、精神的に追い込まれるが、なんとかノンストップならギリギリ明るいうちにゴールできそうだ。
まともにサドルに座ることも出来ない状態、ダンシングでギヤをかけてごまかしながら前に進む。
80時間をきることは出来なかったか…
その気持ちが後半更に失速。
ただ、あと15分ほどで開放されるのだから、最低限でも事故のないようにゴールするよう集中力を切らさぬようにして走り、夕焼けがかすんでいく中、無事にゴールした。


去年以上に今年は何かに追われるようなプレッシャーの中を走ったせいか、ゴールした途端まったく自転車に乗りたいという感覚がなかった。
ゴール地点には去年一緒に参加した笹井くんに車で迎えに来てもらう。
自転車もシューズもヘルメットも、今は触りたくないし見たくもない。
彼に車に積み込んでもらい、自分でも子供地味ていると思うほどに自転車には目がいかない。
とにかく今は自転車を見たくない(笑)


後日談
翌日の打ち上げパーティの際、実は走行時間は自分の勘違いで79時間台ということを主催者の方から告げられた。
79時間13分
目標の80時間は切れたが、多分股擦れがなければ75時間の壁を切ることも可能だったろう。
だが寝ないで走るということは、寝る時間を単純に削ることは出来るものの、その分巡航速度も削ってしまう。
今回の反省点は、台風通過直後で異常に湿度が上がったタイミングで、一度ウェアを着替えてフレッシュな状態にしなかったこと。
多分今回のターニングポイントはそれに尽きる。
往路の広島県三原からの峠の途中で明らかに股擦れの兆候があった。
あのタイミングで着替えていれば…

とにかく無事に今年のさんいん1300を終えることが出来た。
今回は多くの人からツイッター経由で励ましのコメントを多くもらったり、途中走行ルート上で応援してもらえ、非常に元気が出た。
皆さんに感謝するとともに、また体力が戻って来年以降のことを考える余裕ができ、そしてまた出場するときには、今年の記録を上回れるようにしたいと思っている。