オランダより

石畳

世界選手権を終えて、ナショナルチーム本体がオランダからのフライト待ち時間が結構あったので、どこか観光したいということで俺がベルギー観光切り込み隊長に任命された。
ホテルの位置からだと
ブルージュ
アントワープ
アムステルダム
ヘントあたりが候補だったんだけど、結局ブルージュが一番ウケがいいかなということでブルージュに。
ブルージュツール・ド・フランドルのスタート地点でもあるし、水の都として日本人にも人気の観光スポット。まぁ幻滅感が一番少ないかなという理由だったし。
そして何よりも2回出場した思い出のツール・ド・フランドルのスタート地点でもある広場にはもう一度足を踏み入れたかった。
この時期は観光客も少ないけれど、十分あの群集に埋め尽くされたあのときを思い出すことができた。
あのときの灰色の空、ポディウムからみた群集に興奮し、いつも殴り書くように行う出走サインも妙に丁寧に書こうとしつつ、しかしなんか震えてきたなくなってしまって一人で動揺したこと、スタート直前にアメリカンチャンピオンのヒンカピーのウィンドブレーカーだったか長袖のファスナーが壊れていて、安全ピンで固定してみんなに笑われていたこと・・・あの瞬間の広場での時間がオーバーラップし、完全に日本チームのガイドを忘れかけていた。

ベルギーからオランダへ。
いつも俺のバイクを汚してくれたフランドルの畑道たち。
ドライブ中に聞き慣れた「ラジオ・ドナ」
ベルギーの渋滞情報に不可欠な地名「ズワイナールデ」「ケネディトンネル」・・・
・・・もう一生ベルギーに住む事はないだろう。
オランダに入るとき声に出さず、さようならベルギー。
次に訪れるのもいつかはわからない。何かのハプニングで再びレーサージャージを着ているかもしれないが、多分選手という立場で来ることは可能性は限りなくないだろう。
いや、あるかもしれない・・・
そう思って残る競技生活を送るほうが自分に心地よいプレッシャー、テンションを保つことができるだろうし。
ベルギーで過ごした時間は決して楽しい、愉快なものだけじゃない。どちらかというと辛い、重いもののほうが多い。
でも時間の経過とともにそういうネガティブなものはどんどんと浄化されていい思い出の方が比重が多くなるし、そうじゃなきゃ生きていくのも楽しくない。そんなネガティブな、どうでもいい、持っていても仕方のないものだったら時間の経過とともに失ってしまったほうが良いに決まっている。
現実問題、今の俺はオランダ、そしてベルギーでの生活において作られてきた。今回の短い滞在だったけど、自分のキャラクターがいかに今の日本よりも海外に適応しているかと実感したし・・・だいたいブルージュの塔ですれ違う際に通路を譲った日本人観光客ほぼすべての人に俺だけ「ありがとう」じゃなく「Thank you」だったし・・・

ブルージュの広場より。ここがフランドルのスタート地点だ

ブルージュの塔の上よりフランダースの大地を望む