指導するということ

7月から俺の母校である花園高校自転車競技部のコーチをやらせてもらうことになった。
もちろん選手としての活動が一番大事だし、できる範囲でしかコーチングできないので、多分週に一度程度の指導となるだろうが。
俺は中学から乗り始めて、今までほとんど独学でここまでやってきた。
節目となるところでは良い人と出会え指示を仰げたことが今に繋がっているが、ことコーチングとなると恵まれなかったといってもいいだろう。

高校のとき、当時日本最強実業団チーム監督であった高校OBである八代正氏に指導してもらうきっかけがあったのだが、それが今の俺を語る上で最初のターニングポイントになったと思っている。
とにかくヨーロッパでプロとして活動したかった俺は、八代さんに相談。それまで無知だった俺にヨーロッパの凄さや練習の基本を教えてくださった。今でも忘れないのが、高校3年で全日本選手権(当時はジュニアカテゴリーなどなく、参加者すべて同じカテゴリーだった。ちなみに当時の優勝は三浦恭資:現ナショナルチーム監督)をリタイヤしたとき
「きつかったか?」
と言われ、俺は「はい、きつかったです」と答えた。
そのときに言われたのが
「あほ!みんなきついねん。自分のきつさは忘れろ」
当たり前だができっこないと思った。しかし常識と言うのはほとんど自分で常識だと思い込んでいるだけで、そのほとんどは常識ではない。と、思うようになった。あの八代さんの一言は今でも俺の競技人生で生かされている。
八代さんは本当に俺が強くなるために知りたい知識をすべて知っているほどのコーチではなかった。しかしやる気を引き出すと言う意味では一流のコーチであったことは間違いない。
その他にもオランダ滞在中、ベルギー滞在中などにもいろいろなコーチに出会うことはあったが、俺にとって一流コーチと言う面では常にクエスチョンがついて回った。
コーチがいない以上、自分で自分をコーチするしかない。他の選手のようにコーチを雇うほどの余裕はない。俺はスポーツ科学の本などを買い漁り、心拍トレーニングや高地トレーニングなど、多くの知識を勉強した。

でももし専属で一流のコーチがいたなら、もしかすると10年かかったことが8年かからなかったかも知れない。あと2年でもっと強くなったかも知れない。
ほんの少しのアドバイスでもっともっと上にいけたかもしれない。
そう思うことはよくある。でも俺の場合は自分で勉強下からこそ身に付いたし、もしかしたら20年かかったことを10年で出来たのかも知れない、と思うようにしている。

そんなふうに、あと少しのことでもっと変われる、そんなシチュエーションはよくあることだ。
俺は今高校生だった俺を指導してくれた八代さんとほぼ同じ歳になった。今度は俺の経験を多くの若い世代に伝えるときがやってきている。
もちろんミヤタのチームメートである若い世代には、レースや合宿を通じて今までの経験を伝えているし、そして自分が立ち上げたチームの選手達にも伝承している。
時にはチームを超えて、自分にとって後継者となるであろう選手達にも伝えていく必要を感じている。その中で一番悩める年代、一番きっかけがあると伸びる世代である高校生にもコーチングするほうが良いのではないか?そう常々考えていた。こういう機会を作ってくれた花園高校自転車競技部の顧問、そして学校関係者には感謝している。

若い世代を指導することで、自分をもう一度見直し、そして鍛え直すことも出来るはずだ。
まだまだ若いもんには負けられないし、そして俺自身まだまだ若いはずだ。