2010 全日本マスターズ

masahikomifune22010-09-20

レース
それは生きるか殺すか
戦い
そこは戦場・・・

戦士をやめたのは、もう自分が戦士ができないと思ったし自分は「戦闘ごっこ」には興味がないから
しかし引退して1年半以上が経過し、マスターズには出たいと思っていた。
理由は多分書きだすと非常に長くなるので割愛するが、一言で言えば今後の自分の人生の中でプラスになると思ったし、そしてスクールなどをいろいろな形で出会っている人たちに、スポーツサイクルの楽しさを伝えるときに、きっとマスターズのタイトルはプラスになると思ったから
しかしタイトルをとるということは勝つという事
引退後はろくに強度の高い走りはしていない
不安材料はいっぱいあった
しかしスタートと同時に少なくとも頭は「戦士」になっていた


スタートから2周ほどして様子を見るつもりでペースアップ
ほとんどの選手にマークされているのか、集団はローテーションして追走してくる
まずは何度か揺さぶってみる
そして集団の中ほどで休む位置へ
即座に2名がアタック。俺が埋まるのを待っていたか
もし自分が格上の選手と戦うなら、一番不意打ちできる集団に埋もれた瞬間、そして力を使ってチャージするまでのタイミングを狙うだろう
だからこうなることはある程度お見通し
2人が集団から離れていくのをまずは待って単独で追う
現役のときに最も得意としているパターン
3人の先頭グループを形成、集団とのその差は約10秒
ここは追いついた直後できついが、まずは後続と根競べ、追いかけっこだ
一度のジャンプで届かないところまでは休めない
15秒、20秒、そして30秒と広がる。これで他の選手は追走するのは無理だろう
自分と同じく優勝候補に挙げられている松井久選手は、元シマノレーシング全日本選手権ロード優勝や何度も日本代表にもなっている選手で、現時点でマスタークラスのレースでは敵無しの選手。
一番手ごわい選手と一緒に「やはり」なってしまったかと思う反面、他の基本データのわからない選手がたくさんいないことでレースは彼と直接対決の感がある。
もう一人の選手はチームメートのためになのかほとんど先頭には出てこない。もしくは逃げが決まった時点でかなり余裕はないのか・・・
いずれにせよ、同じ勝負をする以上俺は基本的に容赦しない。相手がギブアップをしない限りは「生きるか死ぬか」、その(引かない選手の分も引いて)助けてあげた選手に「殺される」かもしれない。情けはゴールまで決して与えない。とにかくスピードをほんの少し緩めては前に引きずり出し、そして自分が先頭に出たときに落ちたスピードを再び上げるようにする。そうやって相手を消耗させつつ、後続との差を広げていく。


自分のゴールまでの展開としては、松井選手の攻撃、そしてもう一人の選手のカウンターには警戒しつつも、まずは残り距離に対して絶対追いつかれない差に持っていく、そうしてから他の2人を休ませない(自分も休めないが)、そしてゴールまで精神的にプレッシャーをかけていく、というもの
彼らがゴールを考えているのか、もしくは途中で逃げを考えているのか・・・
まずはそこを見極めていく
ゴールライン後の登りでは大体時速30キロ以上で登っていたが、松井選手の時には30キロ以下、もう一人の選手は前に出てくることはない。後ろから観察していると2人とも余裕はなさそうだ。
俺が逆だったら登りきったところで仕掛けるか先頭で登りだしたときに攻撃するか・・・


周回を淡々とこなし、残り3周
ここからは後続を引き離すのではなく、2人のメンバーに休ませないように登りでじわっとペースを上げる
集団はコンパクトになり20人ほどか。こうなると一気に加速して吸収されたり抜け出した選手が追いつく可能性はない。前の3人の戦いだけに集中すればいい


ラスト1周の登りで松井選手が少しペースアップ
しかしこれは想定内
多分松井選手は得意のスプリントで勝負を決めていた節があるが、ずっと休ませない走りでプレッシャーをかけていたし、休んでいないから逃げられるのでは?と思わせていたので、仕掛けるならこの登りの頂上付近だろうと読んでいた。
俺もスプリントには自信があるし、松井さんも迷っているのではと読んでいた
すかさず並走に持ち込み、力の差をアピール。精神的に優位に立つ
登りきったあとはもう一人の選手のカウンターを警戒し、逆に警戒しているアピールをしながら、その警戒が緩くなったところで前に泳いでくれれば最高のパターンだ


ラスト1キロからの下り
多分2人とも最終コーナーで先頭を取りに来るだろう
ここは無理をせず2番手でいい
もしくは松井選手の後ろの3番手でもいい
最終コーナーから150メートル弱と短いので失敗したら終わりだし、修正する余裕はない
しかしトップスピードへの加速は確実に自分が一番速い。それは自信を持っている。落ち着くことが肝心だ

最終コーナーを前に松井選手を前にし2番手
もう一人の選手の動きは常に警戒しながら・・・
とコーナーまで50メートルのところで後ろからアタック!
俺がすぐに反応しポジションはシャッフルされる
俺が2番手で松井選手が3番手
最終コーナーへ
明らかに先頭の選手の能力を超えたスピードと感じたので、コーナーのライン取りを修正し、コーナーの出口では先頭に立つ
そして13Tあたりのギヤでスプリント開始
もうスプリントした瞬間、かなりいい感じでペダルに力が入ってくれたし後ろには気配を感じなかったので、自分の中ではラスト50メートルで勝負は終わっていた


ゴールライン
そこは戦士である自分を解放してくれるところ
ゴールラインを越え、一緒に戦った松井選手と握手する。
今までこの大会までの約3週間ほど、勝てると言われながらも勝負事に絶対なんてものは存在しないのは自分が一番知っているし、なによりもそのプレッシャーは大きかった。
出場者全員が自分をマークしているレースを走ればどれだけ難しいかわかってもらえる。
そしてレースに向けて徐々に強度の高い練習を取り入れようと思っていたが、現実は仕事がひっきりなしに入り、一日中たちっぱなしの仕事や日本全国、そして海外も動き回る日々・・・
ストレスだけが大きくなり、そして気がつくと練習できず付き合いで呑んで不摂生の日々


その中でブルベではなるべくペダリングを意識した走り、そして花園高校でのコーチとして参加している練習では中強度域、現役時代にバイクペーサーをお願いしている人に無理を言い、強度こそ高くがきれいに重いギヤをペダリングするために早朝練習に付き合ってもらったり・・・
そしてレースまでは自分の中に小さく残っている「戦士」の部分を信じて走った・・・

ゴールした瞬間、プレッシャーから開放され体の緊張が抜け落ちる
たちまち全身が痙攣、脚が攣って自転車から降りられないしペダルすら回せない
考えてみたら引退してから5分も最大強度域で走ったことがないのに、今日はすべての時間がほぼ最大域だったのだから仕方がない。もしかするとあと1周は回れなかったかもしれない

今回のマスターズ出場に際し、多くの人に助けてもらい、そして応援していただけたことに感謝しています。
本当にありがとう。



最後の1週間に入り、パワーを計測しながらのトレーニングを行った
今回のレースでは平均的に300Wで走行、最後のスプリントでは瞬間的に1098Wを記録。このコースのスプリントで1000W越えならヨシとしよう