PBP2015 時を越えて走るランドヌール 06

masahikomifune22015-08-27



2日目のナイトラン
初日と比べるとスピードはさほど速くないが、体がきつい。
なぜほかの連中は眠くならないのか・・・かなりきつめのカフェインを接種しているのか・・・
こっちはPCでもらう誰よりも美味しい矢野君が淹れてくれているコーヒーはあるものの、カフェインの錠剤には勝てない。
集団の中に入ろうにも1秒で寝られる、気がつくと集団と10mほど差がつく。何度も何度も集団から離れる。
切れては気合い、着くのも気合い、起きているのも気合い・・・その気合いが数秒で切れる。


アップダウン区間、勾配のきつい区間で前がペースアップし、集団が長く伸びる。
集団がいくつかに分断、ここがターニングポイントか?
後方からペースアップし前方へと上がる。
ここまで900km以上走ったのに、自分でも驚くぐらいに脚は軽く、一番ダメージを食らうと予想した肩甲骨周りがいまだに軽い。
走り出す前よりも軽いかもしれないし、他の箇所も思った以上にダメージがない。


フランスに来る直前に新たに取り入れたストレッチのおかげだろうか。
ブレスト以降、コントロールごとにシューズを脱いで矢野くんが足の裏を解してくれているのもかなり効果大だ。
EPSの恩恵もあるのか指や手首はほかの選手がかなり振ったり、前回の苦しさを考えたら「ない」のも同然の傷み具合。
とても900km走ったという実感が痛みからは感じない。


登り終えて4人ほどに絞られて下りを終えても10人弱。理想的だ。
しかし強調してもらえず、下りで追いつかれる。
T字を左折すると再び登り。
あれ?さっきと同じ登り?下りも一緒だろ、これ・・・
そしてもう1周・・・PBPって周回コースってあったっけ??
結局周回コースを3周。周回遅れが合流したり、しちゃったらどうするのだろうか・・・
と思ってはみたものの、冷静に考えれば周回コースなど存在しない。
完全に真っ暗で周りが見えず、似たようなところを走っているせいなのか周回コースにすら感じる。
幻覚か??
走りながらおかしいと感じているところは、前回のように何がどうおかしいのかわからずに幻覚を見続けていた状況よりもかなりマシだということだろうか。
結局ブレークは失敗し、再び真夜中のサイクリングモードへ。


PC11 ヴィレンヌ 1009km 8月18日 02時43分


オレも寝てないがサポートの矢野君も寝ていない(寝落ちしていたらしいが)
矢野くんが興奮気味に
「がんばって!ゴールまであとちょっと!200kmですよ!!」
いやいや、200kmってびわ湖一周、全然ちょっとじゃないし(笑)


そして強烈な睡魔。
集団にあと10mが寄れない。
何度もフワフワと離れているから眠たいのはばれている筈。何度かペースアップされたが付いては行けるので千切られずには済んだ。
しかし一度、多分20mぐらい離れたところで完全に寝落ち。丘陵地の上を走っているときで右の斜面に落ちた。
とっさに左足を外して足を地面に着いたので何事もなく、集団から離れていたのでライトの光がかなり暴れたが誰にもばれずに済んだが、もし右足を外していたらそのまま滑り落ちていただろうし、集団近くであれば寝落ちしたのがばれていたはずだ。
しかしこんなにドキドキしたにもかかわらず、その後ゴールまでずっと油断するとふと足が止まっていた。


PC12 モルターニュ 1090km 8月18日 06時02分


夜が明けようとしている。
何とか乗り切ったか。
集団は先頭に追い付くことが不可能と判断してか、ゴールまではこのままアタックはやめてゴールしようと言っている。
自分の目標に単独ゴールとかは考えていない。
もしこれが先頭ならばもう少し色気もあったが、ひとまず今回のPBPでは、自分の課してきた目標はすべてクリアーしている。
ここからはたぶん自分から力尽きたりしないことだろう。


ここからドルーまでは前回のルートと少し変更されているようだ。
もう攻撃はしないといいつつも、逆に巡航速度は上がって登りで苦しんでいる選手がいる。と言うかオレもけっこうきつい。
夜のが明けてきたというのに睡魔は取れない。
頻繁にストップするトイレ休憩。
オレはまったくもって出ないのに、みんなはかなり我慢しているかのような量・・・
多分相当カフェインの錠剤などを服用しているのだろうか。
誰ひとり眠そうな態度をしていない。それどころかみんなテンションあがりまくりだ。


ドルーを前にした平坦区間は時速40km/h越え。
何度も踏まないといけないのに睡魔で踏むをやめて離れそうになる。
ホントにきつい・・・


PC13 ドルー 1165km 8月18日 08時58分


イクラックからコントロールまでのトランジット区間が一番堪えた。100mは歩いたはずだ。
アスファルトの衝撃が足首やひざに襲い掛かる。
あと70km弱。されど70km・・・
もうスポドリも喉を通らないしビスコもまずい。ういろうもダメだし菓子パンもダメだ。
内臓は思っているよりかなり限界。
オレだけじゃない、みんな疲れているようだ。


ドルーの町を抜けるまで登り基調。
同じように疲れているように見えるベルギー人たちの会話
A「おい、ロンドン〜エジンバラ〜ロンドンに出ないか?面白そうだぜ」
B「え?」(苦しそうに登る)

聞いたとき、本気で吐きそうになった。
なんで今1400km走ることを想像できるのだろうか・・・
基礎体力も精神力も壊れ具合も、すべてオレなんか負けているなと感じた瞬間だった。


ドルーからはゴールまではツールのシャンゼリゼパレードのようなものか。
遅くはないが、かなり穏やかなペースで進んでいく。
もし単独で逃げる選手がいなければ、ちょっと違うシナリオが用意されていたのかもしれない。
アタックがかかっても前にはいけた自信も少しはあるので、それはそれで興味はあったが、さすがに初の先頭グループ(正確には2位グループだが)で、正直気持ち的には満足しているし、これ以上のことを頭が処理できたのかと言うと自信はない。

往路で通ったことのある、見覚えのある道に合流する。もうすぐゴールは近い。
前回は3度目の夜が迫ってくる時間だったが、今回はまだ昼にもなっていない。
ゴールのサンカンタン・イブリーヌへ。沿道から声援が聞こえる。

スタートして2日、もうスタートしたのははるか昔の出来事みたいだけど、振り返ってみるとあまりにもこの前過ぎて実感もない。
今はただ早くフィニッシュして、ホテルでシャワーして寝たい。


ゴール 8月18日 11時24分 ゴールタイム43時間23分


てっきりヴェロドロームの中とかチップのチェックがあると思っていたら、そのかなり手前、通路のようなところだったのでちょっと面食らった。
イクラックにバイクを置き、ヴェロドロームへ。
もう走らなくていいのか?みんな足が重いのか引きずるように歩いていく。
オレは、ついつい・・・早歩きでヴェロドロームへ。
コントロールで最後のスタンプ。まさか誰も期待していない2番目でスタンプを押して、このレースを、いや旅を終えた。
ゴールした瞬間、急に目が回ってきてその場に座り込む。
たくさんの人がやってきて祝福してくれる。いったい誰なんだこいつら?状態(笑)
多分まさかの日本人、アジア人が2番目にコントロールに現れたんだ、驚かれないはずがない。
しかしそしてすぐにその態度がリスペクトに変わっていく。

ここはやはり自転車文化のヨーロッパ、オランダにいたときもベルギーにいたときも、自転車で戦う「戦士」に対しては常にリスペクトを感じた。
このPBPという、オフィシャルにはブルベなサイクリングイベントでも同じような感覚を感じずにはいられない。
まるで「現代」という箱の中に作られたジオラマ、そしてそこを駆け抜ける自転車は1900年代前半の、パリからブレストを往復する「風を運んでいた戦士たち」とオーバーラップしていく・・・


極限まで疲労と睡魔で倒れそうなはずなのに、異常なほどに興奮と頭の思考能力の暴走気味の処理能力(に感じる)でまだ走れそうに感じるほどだ。
500kmぐらいから少し股ずれしていたので、さすがに走るのはきついが・・・
(途中PCでシャーミークリームを手に取って、そのまま股に直接たっぷりと付けておいたおかげで大事にはならなかった)
たかが自己満足のサイクリングイベントで、レースのように何かを背負って走っているわけじゃないのに、観客や自分を取り巻く環境があたかも世界最高峰レベルのロードレースを、日本人のとして前人未到のことをやり遂げたかのような錯覚に包まれる。
パリ〜ブレスト〜パリがレースだった頃に、もし2番目でゴール地点に戻りスタンプを押していれば、それだけで自分の人生はロケットよりも速いスピードで変わっていったのだろう。
しかし現代のそれには、ない。


宿までの4km、充実感がハンパない。
サイクリングイベントと言えど、やはりこの大会で先頭グループでゴールしたという事実は、第三者的に見ても大きなことを成し遂げたと思っているし、だからこそしてみたかった。
500km地点から単独で抜け出したレンハルト選手は、全く衰えることなく約1時間のリードを作ってゴールしたようだ。
後続は途中からフランスとベルギーの心理戦も加わり、ただでさえ迷いのない彼の走りを、より一層勇気づけてしまい、後続も追うごとに失望を感じた。
15人のうち半分近くは初参加。前回のトップゴールしたフランス人が2人、そして前回2011でフランス人に置いて行かれたベルギー人が一人。
このバランスが15人という大きな先頭グループを形成し、終始心理戦を展開する羽目になったと思っている。
と、これだけでどこがどうサイクリングイベントなのかわからないが・・・まぁブルベの中でも、このぺリ〜ブレスト〜パリは、特に80時間カテゴリーは特殊だ。


宿に着くと同時に、そのままの勢いで着ているものをすべて脱いだ。
やっとシャワーを浴びれる。
43時間分の疲労を洗い流す。
疲れているのかな?肌に少し刺激がある熱めのシャワーが気持ちいい。


ブライアンが乾杯の赤ワイン、カンパイして一気に吞もうとしたが疲れているからか一口で限界。
ダメだ、まだ冷たい水で十分だ(笑)


今回走っている自分以上に大変だったサポートを、初めてのサポートなのに他のサポーターと同じように完璧に、いや他のサポーター以上のパッションで支えてくれたラファジャパンの矢野社長と、このチャレンジをきっちりと記録してくれたブライアンには本当に感謝してもしても足りない。
もちろん自分でも自分を褒めてあげたいぐらいに頑張ったが(笑)、同じように寝ずにサポートしてくれた彼らのおかげで43時間23分という記録でゴールすることができた。
彼らのサポートがなかったら、きっと前回と同じようにロクに食事をせずに先頭グループに食らいついて、すべての体の機能をぶっ壊して、自分の目標タイムすらクリアーできずに終えたことだろう。

そして日本から熱いメッセージを送って下さったすべての皆さん、すれ違いざまに応援してくださったすべてのランドヌール、支えてくれたすべての皆さん
本当に、本当にありがとう。
走りながら何度嬉しくて泣き崩れそうになったか。
でも泣く体力あったら1mでも食らいつく!そう思って渾身のぺダリングをゴールまで!気合いで乗り切る!
そんな気持ちにさせてもらえました。



一口のワインが今あるすべての現実から白くかすれた夢心地の世界へと誘う。
嗚呼、バゲットを買ってきてくれている矢野くんの到着を待たずに、ベッドの上で泥の中に沈んでいく・・・
矢野くん、ここは足の裏を揉んだり叱咤激励して起こさなくていいからね・・・
ZZZZZZZZ


ゴールまでアト70kmを切る



今回はベルギー人とフランス人の心理戦が、レンハルト選手の逃げ切り、そして自分にとっても選手時代の経験を活かすことができて、気持ち的には楽に進めることができた。



ゴール後再びスタート地点へ戻ってみる
まるで遠い昔に見た景色に感じる



痛みが激しくなる前に飲めばいいと用意したアスピリン
10錠も飲むことはないだろうと思っていたが、無意識に9錠も摂取していた。