PBP2015 時を越えて走るランドヌール 05


ルディアックからカレーの間でシークレットポイントへ。
途中ルートを外れて近道や自転車以外の移動手段を利用していないかを確認するための公表されていないポイントを通過
スタンプを押す際、前回も我先にと割り込んでくる。
今回も大きなデンマーク人が割り込んできて一言言ってやったが、だからなんだ!って感じでなめた態度。
絶対こいつより先には千切れねぇぞ!

気温が上がり切っていないからか、それほどスピードは速く感じない。すっかりと明るくなり太陽も登っているのに全員ベスト着用している。

カレーのチェックポイントに到着。
ようやく「朝ごはん」の時間だ。
長く走っていると欲しくなる味の趣向が変わってくる。
前半は日本から用意したういろうが最高で、同じく持ち込んだ麦芽ビスコと触感等が正反対でちょうどよかった。
それにフランスパンにハムやチーズをはさんだサンドイッチやレーズンパンが途中から加わり、なかなかいい感じだ。


PC5 カレー 525km 8月17日 08時42分


コーラを無理やり流し込み、少し登り基調のカレーを進んでいく。
その時に誰かが単独アタック。
まだ集団はみんな揃っていない雰囲気だったので、なんとなく停滞モード。
往路・復路が別ルートになるところでトイレ休憩になり、登り開始。
ロック・トレデュロンにあるアンテナに向かって、約350mまで登坂。
何度か緩い区間を含んでいるし、まだここは攻撃する場所じゃない。
登ってからもブレストまでは下り基調だし、ブレストの町は大きいし交通量もある。
場合によっては車の流れに「追いかけっこ」を阻まれるだろうし、まさかその車の流れを利用してやろうなんてことはないだろうから(心身ともにダメージが大きそうだ)、やはりここはイーブンペースで走ることがあってもそれ以上はない。


今の時点で仮にゴールまでにフランス人たちが揺さぶるとすれば

  • 復路のロックトレデュロンの上り(こちらの方が勾配がきつく長い)
  • 復路のナイトラン
  • ドルーからゴールまでのアップダウン

だろう。ここじゃない。


頂上まではイーブンペースで速いが千切れるほどじゃない。
外人部隊で残っているのはベルギー人が2人、デンマーク2人?登りの余裕そうなスペイン人、あとはフランス人か。
彼らのスプロケットを見るとほぼ全員がかなりのクロス化されたもの。
ケイデンスリズムが変わることで脚の疲労も増えるのだろう。
コンポは電動もチラホラと見受けられるが、クランク(要はBBだろうか)はトラディッショナルなスクエアBB、ホイールは手組みも見受けられるが各自好みでバラバラ、カーボンホイールも目につくがクリンチャーだろうか。
こちらの選手のバイクの仕様を見ているだけでも参考になる。


下りでベルギー人2人が後方から合流。何かトラブルでもあったのだろうか。

ここでベテランフランス人らしき2〜3人が目につき始める。
フランス同盟のパイロットか。
登りスピード等を微妙にコントロールしているように思える。
何があってもこいつらから千切れてはダメだ。

下っているときに前回は比較的すんなりとブレストの町が見えてきたように思ったが、地形的には海も見えずかなり小さなアップダウンがまだ続いているようだ。
落ち着いたペースで爽やかな青空のブレストへ到着。
フランス軍最大の港町、第二次大戦中はドイツ軍の有数の潜水艦基地にもなった町として有名だ。


PC6 ブレスト 618? 8月17日 11時44分


コントロールへと向かうとき前から先頭とすれ違う。
フランス人ではなさそうだ。


どうやら10分差らしい。
ここで10分間小休止しようとパイロットからの提案。異議はない。オレのレースは微妙に彼らのレースとは違う。
彼はどう思っているかは別にして・・・
今は行けるところまで食らいつきたい。攻撃されるとすればどんな攻撃なのか受けて立ちたい。
が、単独で走ることを考えると、せめて明日の夜明けまでは意識のはっきりとした状態でいたい。
それなら今はしっかりと補給しリカバリーしたい。
相手からの10分「停戦」願ってもないチャンスだ。


矢野くんが作っていてくれたマカロニ。オリーブオイルをかけただけの男飯。
だがこんな美味いパスタは生まれて初めて。そう感じるほどに美味い。
全部食べたいが、上手く食べられない。
少し焦っている、そして疲れている。
10分を意識するとパスタを食する時間に使えるのはかなり限られている。
うどん以上そば以下な感じで流し込む。
選手の頃は年間に200食以上は食べて少し飽き飽きしていたパスタも、今は最高!


食べながら状況を説明を聞いたり話したり。
常に時計を見ながら、周りの選手の動向を伺いながらの行動だ。


ブレストの町を出発。ここから気を付けるのは登りでの動向だ。
まだ600kmあるが動きが読めない。
頂上まで約5kmほどで徐々にペースアップ。揺さぶられている。
とにかく集団の中盤より前に入り、登りは楽だよアピール。
体の重たそうなベルギー人は耐えたが、デンマーク人が千切れたか・・・
割り込むからだよ・・・さようなら


頂上で休まずそのまま下りへ踏んだまま突入。
これだと千切れた連中が戻ってくるのは至難の業。よほど足を使わないと無理だが、残り距離を考えるとここからはイーブンペースで走るだろう。実質上先頭グループからは終了だ。
頂上で落合くんとすれ違う。
往路での頂上と復路での頂上まで3時間半ほどかかっている。ということは落合くんとは1時間ほどのスタート時差があるので2時間半ほどの差だ。


再びカレーの町に到着。


PC7 カレー 703km 8月17日14時46分


「5分だぞ5分」
トイレも町の郊外に出たらみんなでするだろうし、有効に5分を使いたい。
と思っていたら、何人かの選手が3分ほどで出発する。
抜け駆けではないと思うのだが、もしここで後ろに合わせて先頭の単独逃げのようになるのも困る・・・
ひとまずコントロールを後にして広い道路に出て後続を待つ。


ルディアックまでは淡々と走っていく。
途中フランス人と4人いるベルギー人で一緒に先頭を牽こう前を追うぞ、嫌だ、何でだ!みたいな感じで首脳会談。
というか会談になっていない。ベルギー人はとにかく轢かないの一点張り。
フランス人たちの練習会のようなイージーライド。先頭とはさらに開いていることだろう。
オレのところにもパイロットは来たが、フレームゼッケンの日の丸を見て言葉が通じないと思ったか、一言も発せず前に移動していった。
とりあえず何かあったら無駄に日本語で大声で喋って、フランス語わかりませんアピールをしておく。


PC8 ルディアック 782km 8月17日 17時47分


ルディアックのコントロールはヤバいぐらい混んでいる。
そういえば前回は晩の10時過ぎに到着し、まさに戦場のような状態。
ルフレストランで並んでいても全然進まず、テーブルも伏せ寝をしている人たちでいっぱい、床に座って食べている人もいた。
今回はそれほどじゃないがやはり多く、バイクを矢野くんに預けようとしたらバイクラックにはスタッフ立ち入り禁止を言われたらしい。
徐々に背中に入れたビスコやういろうの袋などのごみも捨てるのが億劫、矢野くんに放り出してもらう。


前から後方スタートのランドヌールたちが続々とやってくる。
日本人も何人も含まれている。
フランス人やベルギー人たちは立ち止まってまで応援している。
もうナショナリズム高々と、まるで世界選手権だ。
そしてオレも日本人の人に応援してもらう。
こんなに嬉しいことはない、思わず涙が出そうだ。
冷静に考えると800kmを走行し、残りは3分の1の400km。
しかし「まだ」400?km国内ブルベだと速くても15時間「も」かかるのだ。
ふと我にかえると、よく先頭グループに25時間も食らいついている。
いつ脱落してもおかしくない。
あとは気力、気合い、根気・・・気、気の問題だ。


PC9 タンテニアック 867km 8月17日 20時51分
PC10 フジェール 921km 8月17日 22時58分


いよいよ2回目のナイトラン、何かあるとすればここが最大の山場だろうか。
コーヒーを飲む。
矢野くんからも檄が飛ぶ。
日本からの応援メッセージやアクセス数を聞いて、たくさんの人が支えてくれている、そして一緒に戦っている。
何か熱い魂のようなものが自分に体に入り込み、時折無性に涙しそうになる。
苦しいのか?悲しいのか?嬉しいのか?
わからない。
だけど全部であるような気もする。


闇に消えていく景色に、ふと自分がロードレース創世記の頃の選手のような感覚に襲われる。
熱い激励
熱い観客の応援
あの時とほとんど変わらないであろう町や郊外の景色
パリから運んできた香りも、ブレストから運んできた海風も、すべてなくなってしまった・・・
あの日もきっとオレと同じように、ただハンドルを握り締めて、こうやってただペダルを回し続けていたに違いない。


いま自分は時を越えて走るランドヌール
過去も未来も現代も入り混じっているような、誰も先がわからない道の先へと、一筋の光を頼りに突き進んでいく・・・
この闇の先には、何が待ち受けているのか
それを見たくてここまでやってきた
そしてオレは闇へと入り込む・・・


先頭で見ている限り、かなりの選手がスプロケットはクロスレシオ化していた。
ケイデンスが変わるよりも、一定ケイデンスで漕ぐ方が効率がいいという考えだろう。
だいたい80回転ぐらい。
インナーも39Tぐらいだったが、躊躇することなくインナーを使用していた。
オレは今回12T〜29Tのワイドレシオ。
逆にインナーはほとんど使わなかった。



ロック・トレデュドンの鉄塔
遠くからでもわかるランドマークだ




ロック・トレデュドンへ上り切る。



フランスのきれいな田舎町を何度も通り過ぎる



パリへ